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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

乱歩おじさん 江戸川乱歩論

松村喜雄  1992年発行

愛にあふれた評論

 江戸川乱歩の親戚にあたる松村喜雄が書き上げた乱歩論。松村は、都筑道夫と共同でシムノンの『霧の港』等を翻訳したり、ミステリを書いたり(『紙の爪痕』が乱歩賞候補になった)、評論を書いたり(『怪盗対名探偵』が日本推理作家協会賞評論その他部門を受賞)していた人。乱歩研究の類は数多いけれど、これが一番読みやすいのではないでしょうか。ただ、内容がとても軽くて薄いことは否めません。作品を通じて乱歩の思想に迫るとか、そういったハードな側面はありません。評論というよりは、当時の乱歩を知ることのできるエッセイと捉えた方がいいでしょう。ディープに乱歩世界にハマりたい人や学究の徒といった人たちには向かないかもしれませんが、だからと言って、本書の価値が減じるものではありません。

 研究本とか評論とかってものは、なんだかマニアマニアしていて、読みづらくて、書いている奴のマスターベーションみたいなのが多いのです。いろんなことを調べて、普通では気がつかんことを指摘して、そういうことって立派だとは思うんですが、肝心なのは、それを分かりやすく伝えることではないのか、と思うわけです。「俺、こんな難しいこと考えてるねん。すごいやろ。偉いやろ。」なんて威張るんじゃなくて、研究本を読んだ人に「あ、そんなに面白いんなら読んでみようかな」とか「そんなことは思いつきもしなかった」って感動させるのが一番大事なことでしょうに。だから、笠井潔はダメだっつうんだよ。

 さて、この本の分かりやすさというか親しみやすさは、著者自身が乱歩の親戚(従妹の息子だから従甥(いとこおい))だったので、乱歩(と、その作品)に対する深い愛情が自ずと滲み出ちゃって、ほのぼのした感じを漂わせているからというのも大きな理由ではありますが、抽象的な議論に陥らず、難しい引用だのなんだの衒学的な方向にも向かわず、作品一本一本を、誠実に、丁寧に解説しているという初心者にもありがたい構成によるところが大なのです。少年モノも含めて全作品を解説しているなんて、なかなかないですからね。また、エログロをまったく感じさせない作りが非常に良心的で、誰でも気軽に手に取れる本になっています。


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