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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

人形はなぜ殺される

高木彬光  1955年

筆者の投げる手袋は、「人形はなぜ殺される?」

 明智小五郎、金田一耕助と並んで、日本の三大名探偵の一人に数えられる神津恭介ですが、『特捜最前線』の神代恭介に名前が似ているということ以外、イマイチ個性が感じられませんね。土曜ワイド劇場じゃ近藤正臣が得意のトランプ片手に演じていましたが、あの人がキャスティングされるんですから、大方のイメージとしては少々嫌味で気障な感じなのでしょうか。個人的には、あの○○○○シリーズの最後で、○○を○○にまで追いつめておきながら、ぬけぬけと「僕は悪くない」みたいなことを言う態度を見て以来、こいつは名探偵の名に値しないと思っております。伏字ばかりで何のことやらサッパリ分からんという方も多いかとは思いますが、このシリーズの光文社文庫版の解説みたいにネタバレするわけにはいきませんからね。

 大体、高木彬光の作品そのものがピンと来ないというかキャッチーじゃないというか、『刺青殺人事件』にしたところが機械トリックで分かりにくいし、明らかに嘘が書いてある部分があるし、個人的には好きな『成吉思汗の秘密』 にしても地味で、高木には本格ミステリよりも『白昼の死角』のような作品の方が合っていたのではないかと思うのですが、本作は昔懐かしい探偵小説の香りもかぐわしく、不気味な雰囲気とハッタリも効いていて楽しい作品です。

 新作マジック発表会のさなか、ギロチン手品のタネである人形の首が、衆人環視の中で鍵のかかったガラス箱から蒸発してしまった。その直後、突発した殺人事件の現場には、無惨な首なし死体と行方不明の人形の首が転がっていた。殺人を予告する残酷な人形劇。これは、名探偵、神津恭介への悪魔からの挑戦状か。困惑する神津をあざ笑うかのように、人形が第二の、そして第三・第四の殺人を予告する!

 これです、これ。やっぱり推理小説はハッタリですよ。「読者諸君への挑戦」も入っています。これらとともに、ワクワク感を大いに盛り上げてくれる冒頭の「序奏」と題した部分を、ちょっとだけ引用して、この項を終ることにしましょう。

 この奇怪な連続殺人事件の物語の筆をとるにあたって、私はまず、一見異様と思われるこの題名について、一言おことわりしておかねばならないような気がする。(中略)この題名も決してこけおどかしのものではない。この人形殺人事件の犯人は、断じて伊達や酔狂で、人形を殺して行ったのではないのである。(中略)その人形殺しの意味を見やぶることに、この事件全体の秘密をとく鍵がかくされていたのである。その意味で、この題名はそのまま、本格推理小説の立場からする、読者諸君への挑戦の言葉とうけとっていただきたい。筆者の投げる手袋は、「人形はなぜ殺される?」


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