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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

推理教室

[編]江戸川乱歩  1959年

我々は読者諸君に挑戦する

 本棚を整理していると、埃とともに、こういう本が飛び出してくるからびっくりです。オリジナルは昭和34年に発売されたもので、江戸川乱歩が編んだ謎解き短編のアンソロジーです。

 推理遊戯の本はいろいろ出ているが、まだ日本の作家の書きおろし作品を集めたものは出ていない。そこで、この新しい企画が立てられたわけである。短い読みものとしても面白く、同時に謎解きの知恵だめしもできるようにという注文で、日本推理小説界の中堅、新進の諸家に、一人二篇ずつ書きおろしてもらって、新作ばかりを集めたのが本書である。

 ……と乱歩が言っています。乱歩自身は賢明にも書いていませんが(こういうものは書いても失敗したに違いない)、鮎川哲也だの仁木悦子だの佐野洋だの飛鳥高だのといった錚々たる(中には、今ではほとんど作品にお目にかかれない、かなりマニアックな)メンバーが執筆陣に名を連ねています。『推理日記』でおなじみ、怖い御意見番の佐野も当時は「新鋭作家」の一人だし、仁木なんて乱歩賞取ったばっかりのペーペー。実に贅沢な短編集で、ヴィンテージものでございます。推理小説ファンなら楽しめること請け合いです。解答編が、問題編の後に天地さかさまにして印刷されているのも、読むのは面倒ですが、昔懐かしくて楽しい趣向です。

 有名な作品のトリックだけを取り出したクイズ形式の本は見かけますが、描き下ろしの犯人あて小説集という企画には御無沙汰のような気がします。似たような企画で、推理作家の若竹七海が実際に体験した謎(毎週土曜日になると50円玉20枚を握りしめた男が書店に現われ、千円札への両替だけ済ませて帰っていく)の解釈を作家達が小説化する『競作 五十円玉二十枚の謎』が好評を博しましたから、需要がないわけではないと思うのですが、この世知辛い御時世、こんな贅沢な企画は通りにくいのかも知れません。しかし、推理小説からお遊びの要素、遊び心(これを悪い意味に解釈して駄作を出している輩もいるが)を省いてしまったら、こんなに味気ないことはないわけで、たまにはやってもらいたいものです。少し前なら、島田荘司とか笠井潔とかが音頭を取って新本格系の作家に声をかけ、でも、編集やらなんやら実際の仕事は芦辺拓にやらせて出来上がりなんてことも実現可能だった気がしますが、今はミステリ界も混沌としていますから、なかなか難しいのでしょうね。もっとも、新本格の人たちは、ただでさえ本を出してくれないので、こんな企画に携わっている余裕なんかないのでしょうけれど。