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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち

切通理作  1993年

さらば、ウルトラマン!

 ウルトラシリーズに携わった4人の作家が、ウルトラマンと怪獣たちが織りなすドラマに投影した、現実から負った心の傷の痕跡とはなんだったのか。怪獣に夢中になり、時に同化していた少年は、使命を受けたかのように、ドラマを振り返り、その生みの親たる作家たちの軌跡を丹念にトレースする。作家が怪獣に託した「時の断層」を掘り起こす地道な作業を通して、少年が見たものは……。

 タイトルは勿論『帰ってきたウルトラマン』の1エピソードから採っていますが、直接関係はありません。ここでいう「怪獣使い」とは脚本家のことです。ウルトラシリーズのみならず、いわゆる巨大ヒーローものの基本フォーマットを作り上げた金城哲夫、変化球の問題作を連発し、作品の幅を広げた佐々木守、怨念の力で現実を撃ち続けた上原正三、夢見る力こそが現実に打ち克つと信じた市川森一を、それぞれ「永遠の境界人」、「永遠の傍観者」、「永遠の異邦人」、「永遠の浮遊者」と捉え、そのメッセージを読み解く作家論。作家論なんていっても別にカタイ本じゃないです。著者は、いろいろインタビューをしたけれど、結局「あなたはどんな子供だったんですか」という質問をしたかっただけなのかもしれないと述懐していますが、私としては、シナリオライターを目指している人とかよりも、自分のことをつまらなく思っている人、いじめられている人、楽しいことなんかないなぁと思っている人に読んでほしいです。明日も生きてみようかなぁと思いますよ。私は、この本を読んで随分救われた部分があります。

 最近はやりの『だから、あなたも生き抜いて』なんかと一緒にしてはいけませんよ。あんなもん、何ぬかしとんねんと思いますね(読んでいませんけど)。いじめのせいで自殺未遂に追い込まれ、非行に走って刺青入れて16歳で暴力団組長と結婚。ホステスをしていたけれど猛勉強して司法試験に一発合格して、今は弁護士です?はいはい偉いねぇ、自慢話は他所でやってくれ。何が「だから、あなたも」やねん。モノ言うんやったら、弁護士になる前に言えっちゅうねん。ぐれて、刺青入れて、極道の妻やって、児童虐待しまくって、でも絶対弁護士にはなれない奴がほとんどなのに、説得力というものが全然ない。

 その点、この本は、特に非行に走ったわけではないけれど、現実に何となく違和感を抱きつつ、弁護士みたいな社会的地位はなくても、一生懸命仕事している人が書いたのだというところに意味がある。幼いころに触れた物語に、どれだけ多くのメッセージが込められていたか。作家たちは、そのメッセージを、どんな思いで伝えようとしていたか。あぁ、自分は間違っていなかった。生きていてもよかったんだ。生きていてよかった。それを教えてもらって、私は涙しました。ごく普通の人が、ごく普通に日々を生きていくための勇気を与えてくれる、心に温かい灯がともる名著だと思います。


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