本文へスキップ

ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

鳥人大系

手塚治虫  1985年

人、鳥、そして、その次は……

 それにしても最近ほとんどマンガを読まなくなってしまった。オッサンになって感性が鈍くなってきたとか、世間の動きについていけていないとか、おいていく自分の姿を思い浮かべると気が重い。ステテコはいて、腹巻まいて、仁丹なんか口に放り込んだりしつつ、読むのは新聞だけといったような余生が待っているのだろうか。もっとも、この歳になってマンガを読み漁っているというのも、どうかと思う(「大学生にもなってマンガを読む」というのがニュースになったのは60年代だったかしら)けれど、それでも手塚治虫作品だけは、読んでいても後ろ指を指されることはないだろう。マンガの神様と称されながら、国民栄誉賞も贈られなかったり(長谷川町子なんかが貰っているのに!)、いろんなところから抗議されたり、アニメーションに関して宮崎駿にボロカスに言われたりと、なかなか悲しいことも多かったりする人だけれど、我が国を代表する偉人の一人であることは間違いのない事実(立川談志に至っては「天才とはレオナルド・ダ・ヴィンチと手塚治虫のことをいう」とまで言っている)。そんなわけで、余計にオッサン疑惑に拍車をかけるかも知れないけれど、イイものはイイので構わず紹介する(こういう頑固なところもオッサンの証明……?)。本作は、手塚作品の中ではマイナー作品の部類に入ると思うけれど、有名作品群に負けない読み応えがある。

 世界中のあちこちで鳥類が高い知能を持ち始め、万物の霊長たる人類の地位を脅かし始める。そしてついに彼らは人類を追い落として新たなる地球の支配者となった。実は高度な科学技術を持つ異星人たちの中に「今の地球人は歪んだ存在、地球を支配する生き物は鳥類から進化すべき」と主張する政治家がおり、その計画が実行に移されていたのである。鳥類はやがて鳥人となり、人類は彼らの家畜となって次第に姿を消していった。だが高度な文明を築き上げた鳥人たちはかつての人類と同様に迷信や偏見や物欲に囚われ、羽の色や模様で互いを差別しあい、戦争や環境破壊を起こすようになる。そして、遂には滅亡への道を歩み出す……。

 以上のような物語を背景にして、各時代のエピソードを描くSF連作短編で、その展開は正に手塚でなければ描けない作品。鳥類に仮託して、人の愚かさを描き切った見逃せない傑作。それにしても、この人はどうして、ここまで暗くて嫌な作品を描けるのだろうか。マンガの神様である手塚が作品中で見せる作者=神の目というものは冷徹で無情で、なんてことを批評家はよく言うが、ひょっとしたら単に性格が悪かっただけではないのか。暗い話にしかなりようがない『アドルフに告ぐ』はまだしも、あの『鉄腕アトム』にも、かなり暗い話があるし、ライフワークだった『火の鳥』と来た日には、読んだら最後、天井の梁を見上げてしまうこと必至である。


メニュー

  1. トップページ
  2. 特選名曲
  3. 特選名著
  4. 特選名画
  5. ヴァイブの殿堂
  6. PROFILE
  7. BLOG
  8. BBS
  9. LINK

おすすめ情報