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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

私が捜した少年

二階堂黎人  1996年

思い起こしてみると、その頃が私の人生で一番どん底だった

 二階堂黎人と言えば、最近では「容疑者X論争」の言いだしっぺとして名高い。簡単に言えば「東野圭吾の『容疑者Xの献身』は本格ミステリの要件を満たしていない」という主張だったので、じゃあ「本格」とは何かという定義を皆で共有しようではないかというふうに議論が進めばよかったのだが、「本格」について一言も二言も言いたい評論家や作家が多数参戦、俺こそが正しいのだ!と言い合うだけの大乱戦と化し、挙句の果てには議論の焦点すらずれ始め(笠井潔は「本格だけどレベルは低い」とか言い出す始末。その「本格」とは何か、を議論しているのであって、レベルは次の話だろうが)、結局何の実も結ばずに終わってしまった。今のところは「本格観は人それぞれ違う」というのが正解になっているようだけれど、それでも、ランキングを作成したりする場合には物差しが必要なはずで、それがたとえ万人に受け入れられるものではなくとも、「こういう要件を満たしたものを本格とする」という定義は必要だと私は思う(そういう意味で、二階堂が最初に批判した『本格ミステリ・ベスト10』の編者である探偵小説研究会は随分よろしくない団体である)。

 そんな本格推理小説原理主義者、二階堂の代表作は、天が呼んだか地が招いたか悪逆非道の怪人と戦う美貌の名探偵、二階堂蘭子シリーズであり、私も衝撃の結末が待つ『聖アウスラ修道院の惨劇』が好きなのだけれど、本作のインパクトには勝てませんでした。

 私の名前は渋柿信介。独身。職業はライセンスを持たない私立探偵。オフィスは自宅の2階だ。妻子も兄弟もいない。日常のしがらみに追われながらも、鋭敏な頭脳と大胆な行動力とで、次々に舞い込む事件を解決へと導く。私の元に久々の依頼が舞い込んだ。依頼人の名前は宇井地理子。失踪した弟のキンタを捜してほしいと言う。誘拐事件と確信する私は、その日、父親からヤクザの失踪事件の詳細を聞かされるが、なんとその現場が依頼人の弟が失踪した公園のすぐ近くだ。事件を追った私は、一見無関係と思われた殺人事件の鍵を握った……。表題作をはじめ、5編からなるハードボイルド短編集。

 というわけで、この傑作ハードボイルドの趣向については、既にあっちこっちでバラされていますけれど、私は敢えて何も言いません。何の予備知識もなく読んだ方が絶対に面白いです。一切のガイド本、解説の類を遠ざけましょう。今までこの作品について何も知識を得ていないあなた、物凄い幸せ者です。その幸運を無駄にしてはいけません。すぐに本屋に走りましょう。買ってきたら、すぐに読み始めなさい。


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