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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

銅版画 江戸川乱歩の世界

多賀新  1988年

乱歩らしさ炸裂の銅版画集

 江戸川乱歩の全集は、過去から何度も編まれてきましたが、現在、書店で入手できる文庫全集は春陽堂の江戸川乱歩文庫だけでしょう。天野喜孝が表紙絵を担当した講談社の江戸川乱歩推理文庫全65巻は絶版になって久しく、編集方法がイマイチな光文社文庫版全30巻も、最近は店頭で見かけなくなりました。初出時の挿画全点復刻でマニアを狂喜乱舞させた創元推理文庫版は「全集」ではなく「傑作選」なので、収録されていない作品が多い(でも、『人間豹』があって『白髪鬼』がないのは明らかに変なセレクト。挿画が発見できないのだろうか)のが残念です。現在20巻が発売中(他に『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』がある)で以下続刊となっているものの、長らく新刊は出ていません。もっとも、これほど全集が編まれ、今でも店頭で入手できるのは乱歩だからこそで、あの横溝正史にしてからが、杉本一文の表紙絵で一世を風靡した角川文庫版全90巻は、ほぼ全滅。現在では、表紙を変え、言葉狩りを施された状態のものが数作読めるだけ、ここでも頑張る春陽文庫版金田一耕助の事件簿全20巻は、有名長編がことごとく収録されていないマニアックなもの(これはこれで貴重なのですが)というわけで、古典ファンは泣きの涙に捨て所なしなのです。

 さて、春陽文庫の乱歩全集には解説がない、活字が汚くて読みにくい(独特の雰囲気は醸し出していますが)といった難点がありますが、表紙の素晴らしさは一級品です。以前は高塚省吾という洋画家が担当していたそうですが、現行の多賀新の銅版画は、高塚作品より暗くて、いかがわしくて、気色悪くて、変で素晴らしいのです。多賀新は、1946年北海道生まれの版画家で、1969年から銅版画を独学で学び、1973年に版画グランプリ展賞を受賞した人です。少年時代に都会の雰囲気を味あわせてくれた乱歩には思い入れがあるようで、やはり、愛があるから良い作品が仕上がるのだなと思わせてくれます。

 絵だけで充分楽しめるうえに、各作品の解説もあって充実の出来なのですが、すべての作品についてネタバレがあるのがよろしくありません。何も結末まで全部書いてしまわなくてもいいと思うのですが、マニア向けの本だから、これを買うような人は全部読んでいるに違いないと高をくくったのでしょうか。私は『猟奇の果』『偉大なる夢』も読んでいなかったのですが(もっとも、読んでみたいとも思っていなかったのだけれど)、中には、この画集から乱歩作品に触れていこうと思っている人もいるはずなので、もう少し配慮してくれてもよかったのではないかと思います。これが老舗の春陽堂だから、余計に残念です。


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