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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

言葉につける薬

呉智英  1994年

必ずや名を正さんか

 呉智英の著作の中で一番読みやすいのは『サルの正義』だと思うけれど、それは呉智英のモノの考え方だの何だのを最も分かりやすく伝えている、という意味であって、内容的に万人がスッと入り込めるものかどうかというと、ちょっと辛いかも知れません。と言うのは、極めてエキセントリックなので、読んでいると普通、「おいおい、そこまで言わんでも」なんていう良識という名の邪魔が入ってしまうからです。俺はそんなことないけどね。世間で良識とされていること、それが実はいかに歪んだ心から発しているものか、物事の本質から目を逸らしまくった愚かなものかということをビシッと教えてくれるのですが、そういう真実に耐えられる強靭な心を持つ人というのは意外に少ないもので、私なんかはイライラすることも多いのですが、大衆というのは、そういうものなのかも知れません。しかし、呉夫子の本を読まないというのは、とても損なことなので、オーディナリー・ピープルのための入門編として、本書を御紹介しましょう。

 孔子曰く、「必ずや名を正さんか」。日本語が乱れている。単語の混乱ではない。「名」の混乱、パラダイムの混乱なのである。だから孔子にならい、呉智英も言う。「必ずや名を正さんか」と。誤字を笑い、誤文に怒りながら、著者が、言葉と思想について、言葉と文化について、根源的な「知」の面白さを開示する知的エッセイの名著。日本語の乱れを指摘し、言葉と思想について、言葉と文化について深いつながりを説く。

 普段何気なく使っている言葉が実は誤用だとか、言葉の意外な由来だとか、こんな知識を惜しげもなく、しかも、ものすごく読みやすく書いてある本なんて、ほかには見当たりません。もちろん、裏には民主主義批判が隠れているのですが、ちょっとしたマメ知識本としても読めるので、万人向けナンバーワンです。しかし、誤用の満ち溢れ方がただ事ではないことを知って、慄然としてしまうかも知れませんね。マスメディアが使っているからって、マトモとは限りません。むしろ酷いものです。これのおかげで「へぇ、そうやったんか」と目からウロコ……そうそう、この「目からウロコ」の出典も書いてあります。さぁ皆で読みましょう。そして言葉を誤用している奴を嘲笑っちゃいましょう。そして、さりげなく訂正してやりましょう。なんて嫌な奴だろう。同じコンセプトで書かれた『ロゴスの名はロゴス』『言葉の常備薬』『言葉の煎じ薬』も面白いので、併せてどうぞ。


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