本文へスキップ

ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

封建主義者かく語りき 「封建主義、その論理と情熱」改題増補版

呉智英  1991年

民主主義を疑え!

 私は昔、上岡竜太郎が好きだった。『鶴瓶上岡パペポTV』が売れて、全国ネットの面白くもくそもない番組に連れ出されて、何故か突如ブレイクした加賀まりこと同レベルの毒舌タレントの一人みたいに扱われるのが我慢ならなかった。手を抜いて仕事をしているのが、ありありと分かるのも嫌だった(もっとも、おかげで全国ネットの番組というものが、いかにつまらないのか、いかにハードルが低いのかがハッキリしたのは面白かったが)。まだ全国ネットになりきっていない頃、『世界まるごとHOWマッチ』にゲスト出演した上岡は、自ら使った関西弁「ほかす」について、「それ、どういう意味?」と半笑いで尋ねた大橋巨泉に対し、「日本語が分からないのか?」とキレて問い返していた(ちなみに「捨てる」という意味である)。あの頃の上岡は、まだ狂気を秘めた奴だった。面白かった。もっと昔は人生幸朗が好きだった。「松田聖子のガラスの林檎……そんなもん食えるかい!」という、しょうもないギャグも好きだった。私は、極端なことを面白おかしく言う奴が好きなのである。そこに何とも言えない知性を感じちゃう性質なのである。で、呉智英という人は、明らかにその系列に連なる人だと思うのである。

 民主主義は真理なのか。ファシズムだってスターリニズムだって、民主主義が誕生するまでは、人類は一度として体験していなかった。民主主義こそ、諸悪の背後に潜む最大の黒幕ではないのか。著者は敢えて宣言する。「封建主義」に目覚めよ、と。この豊潤で輝かしい思想を、20世紀末の今、思い起こせ。

 民主主義批判、人権思想批判でおなじみ、我が国が誇る知識人、呉智英最初の評論集ということで、かなり気合が入っている。とにかく民主主義なんてものは欺瞞に満ちていて、人類史上最低最悪の思想である、ということを激越な調子で語っている。呉の思想のすべてがここにあるといっても過言ではない。呉には、そのものズバリ『危険な思想家』という著書もあるのだが、中身はいたってマトモで、決して危険思想ではありません。こういう本を読んでおけば、余計なものに惑わされず、物事の本質といったようなことをクリアーに見つめることができるようになっちゃったりするわけである。文章も難解なところはなくて、ごくごく読みやすいので、案外すいすい読めるので安心(なにせ私が愛読できるくらいなんやから)。大丈夫ですって、怖いのは最初だけさ。ただし、副作用として、あぁ、度し難きかな大衆といった感じで、世間の連中が皆アホに見えてしまい、社会人としての生活に支障をきたす恐れがあるので、くれぐれも御注意を。とにかく呉夫子には、東京進出した上岡のように丸くなったり手を抜いたりせず、過激路線を突っ走ってほしいものである。


メニュー

  1. トップページ
  2. 特選名曲
  3. 特選名著
  4. 特選名画
  5. ヴァイブの殿堂
  6. PROFILE
  7. BLOG
  8. BBS
  9. LINK

おすすめ情報