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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

人それを情死と呼ぶ

鮎川哲也  1961年

おなじ汚職という問題をとり上げた場合、本格作家はそれをどう料理するか

 貝沼産業の販売部長だった河辺遼吉が突如失踪した。妻は、汚職事件をめぐるトラブルに夫が巻き込まれたのではないかと考えたが、夫と浮気関係にあったらしい女性の存在が浮かび上がり「男前でもないくせに」と愕然とする。果たして箱根の山中で河辺と女性が死体となって発見された。人は皆、河辺は浮気の果てに心中したと断定した。しかし、ある点に注目した河辺の妹と妻だけは、小さな矛盾から、二人の死が偽装心中ではないかとの疑念を抱いたのだった。A省の汚職事件に関与していた兄は、口を封じられたのではないか?兄の死によって利益を得る人物は誰か?彼の死によって司直の手を免れた二人の男が容疑者として浮かび上がる。妹と妻、そして心中相手の義弟とは独自の捜査を開始するが、その前には調べるほどに堅固になっていくアリバイが立ちはだかる。捜査に乗り出した鬼貫警部は、鉄壁のアリバイを崩せるか?

 私は鮎川哲也の良い読者ではない。いやしくも本格推理を愛すると公言していながら、「本格派の驍将」とまで称される人の長編をあんまり読んでいない。それでも半分くらいは読んでいるので、まぁそこそこ読んでいる方だという気もする(全長編をクリアした作家なんてエラリー・クイーンしかいない)のだが、短編でもまともに読んだのは三番館シリーズくらい(これは本邦三大短編集の一つと信じる)だけなのだから、ろくな読者ではない。なぜ鮎川が合わないかというと、アリバイ崩しが好きではないのと、時刻表がてんで駄目だからだ。だって、どうせ崩れるんでしょ、アリバイってものは。犯人は早い段階で割れちゃっているし、何に興味を持って読み進めていいのか、さっぱり分からない。要はハウダニットって奴に、あんまり関心がないのです。それに若い頃はハッタリの効いた作品の方を好んで読んでいたので、どうも地味な印象のある鮎川作品には手が伸びなかったのです(でも、土屋隆夫は読んでたな……不思議)。しかも、本作は『点と線』を意識したということで、汚職問題も扱われているし、これまた嫌いな社会派かと思って読み進めていると、思わず姿勢を正してしまう大傑作。驚嘆のドンデン返しと、美しいラストシーン!そして、読了後しみじみと感じ入る素晴らしいタイトル!実際、代表作と言われている『りら荘事件』『黒いトランク』より面白かったし、本作こそ鮎川の最高傑作だと思うので、私のような食わず嫌いの人は、騙されたと思って手に取っていただきたい。

 やはり、作品を読まず嫌いするのはいけないことだなぁと思い知ったので、参考に『鮎川哲也読本』を読んでみたのだが、加納朋子のエッセイが面白かった(何の参考にもならなかったが)くらいで、後はイマイチの駄本だったので、とりあえず短編集2冊を買った。北村薫編集による創元推理文庫『五つの時計』『下り“はつかり”』である。何故か三番館シリーズは楽しめた私なので、とりあえず短編から攻めることにする。日常の謎を好まず、したがって北村の良い読者でもない私ではあるが、そのセレクトは信用に足ると思っている(実は大いに騙されたことも一度や二度ではないのだが)。しかし、マニアの中には「これから鮎川を読み始めようなんて、幸せの極致ではないか!」と叫ぶ人たちが多そうだなぁ。ホントにそうお?



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