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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

猿飛佐助

杉浦茂  1953年~1955年

あばよ、ちばよ、とっとりけーん

 杉浦茂というと、赤塚不二夫が最も影響を受けた漫画家として有名です。『天才バカボン』に登場するレレレのおじさんの指の形を見れば、影響の大きさがハッキリ分かります。あの指の形、楳図かずおの「グワシ」にも影響を与えているのだろうか。それはさておき、杉浦は漫画界の歴史的存在です。なにしろ明治41(1908)年生まれで、『のらくろ』で売れっ子になっていた田河水泡に1931年に弟子入り、長谷川町子の兄弟子に当たるのですから、これ以上ないというほどの血統なのですが、描く作品は、とんでもなく奇妙奇天烈なものです。

 本書は、猿飛佐助の忍術修行や、徳川方の豪傑や忍術使いとの戦いを描いたもので、こういう講談ネタというのが時代を感じさせます。ところが、時代を感じさせるのは、あくまでネタだけ(「かつ丼も安いのはクジラだが、これはスペシャルだからブタだ」なんてセリフもありますが)で、時代劇にもかかわらず空飛ぶ円盤は出てくるわ、謎のロボットは出てくるわ、気持ち悪い生き物は出てくるわ、異様で大胆でとんでもないイメージの連続。驚異のパノラマ。とにかくポップでキッチュでシュール。登場人物も、コロッケ五円のすけ、うどんこプップのすけ、ふうせんガムすけ、どろんきえのすけ、なんでもポキンのすけ、おちゃづけ三ばいのすけ、からてチョップのすけ、デレンメガネのすけ、やさいサラダのすけ、ビキニまぐろのすけ(こいつは風刺が効いてるね)と、「~のすけ」と付ければ何でもアリ、更には、やきそばろうじん、やきぶたにいちゃん、らっきょうぼうや、ハムカツ十円のじょう、まるいがんものじょうと美味そうだけど強そうでない奴、挙句の果ては、おもしろかおざえもん、ポコペン小僧、ガボガボ仙人と訳の分からん奴らが現れます。侍も、ちくわ穴の守、だんごくしの守、かまぼこいたの守、もなかあんの守、あんこすきの守と威厳もクソもない連中。名前も名前なら、姿かたちも抱腹絶倒のフリークスすれすれの連中が、山田風太郎もビックリの超絶忍法を使って戦うのですが、やりたい放題で無茶苦茶いい加減な話なのかというと、さにあらず。健全娯楽を絵に描いたような児童書の正統派とも言える仕上がり。天衣無縫としか言いようがありません。脳味噌がどうにかなってしまうようなアイデアを、めちゃめちゃ可愛い絵柄でお届けする国宝級のマンガです。

 実際、ここまで弾けたというか狂ったというか、はっきり言って異常なことをやりながら、これほどの完成度を誇る作品なんて存在自体が奇跡みたいなものです。とにかく見かけたら即ゲットすべし。これを持っていると持っていないとでは人生の潤いとコラーゲンが約30%違います。超弩級のオススメ作品。『少年児雷也』『少年西遊記』『ドロンちび丸』なんかも面白いです。珍しく悲劇的な『モヒカン族の最後』、よりシュールな方向に走っている『聊斎志異』などにも手を出してみてください。


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