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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

剣客商売

池波正太郎  1972〜1989年

その日。(改行)秋山小兵衛は軽袗ふうの袴をつけ

 私は基本的に酒を飲まない。より正確に言うなら、外で酒を飲むことを好まない。というのは、酒場の雰囲気が嫌いだからである。無意味にやかましく馴れ馴れしいのが鬱陶しくて疲れるのである。そもそも賑やかなのが好きじゃないのだ。楽しい連中と一緒なら酒なんかなくても楽しいし、楽しくない連中とは同じ席につきたくない。じゃあ一人なら飲むかというと、やっぱり飲まない。天下の甘党だからという理由もあるけれど、要するに酒が美味いと思えないのだ。確かに暑い日のビールは美味いけれど、それは最初の一杯だけだし、暑い日の一杯なら麦茶で一向に構わない。ウイスキーは香りが良いだけ、日本酒はシンナー臭いし、臭くなくても確実に二日酔いする。ワインに至っては何が良いのかサッパリ分からない。今すぐファンタグレープと交代してほしい。そんな私でも、これを読むと、なんとなく酒が飲みたくなってしまう。ただし、名古屋の銘酒「醸し人九平次」純米大吟醸に限るのだけれど。で、更に、そばなんか手繰りたくなっちゃう困った作品である。

 池波正太郎の3大シリーズの一つ(他の2つは『鬼平犯科帳』『仕掛人・藤枝梅安』)であり、その読みやすさから私が最もオススメするシリーズ。十代将軍家治の治世。秋山小兵衛は無外流の老剣客。還暦近い年ながら40歳も年下の下女のおはるに手をつけ、今では鐘ヶ淵に隠居している飄々とした剣の達人。同じく剣客だが父に似ず堅物の息子、大治郎、老中、田沼意次の妾腹の娘で女武芸者の佐々木三冬らが、江戸を舞台に様々な事件に遭遇し大活躍。

 「行間を読む」という言葉がありますが、池波作品は行間どころか改行だらけ、しかも1行が「その日。」の4文字だけだったりすることが多くて、やたらと読みやすい。おまけに中身はどれも似たような話で、すぐ忘れてしまうから何度でも再読できる。あんまり褒めていないように聞こえるかも知れませんけど、面白いですよ、ほんとに。

 テレビでも放映されましたが、正直なところ、キャスティングには違和感があります。もっとも私が見たのは藤田まこと版だけなのですが、作者がイメージした二代目中村又五郎とは似ても似つかない馬面。そもそも池波は『仕掛人・藤枝梅安』を改悪した必殺シリーズを毛嫌いしていましたから、生前であれば必殺シリーズの顔である藤田を絶対起用しなかったでしょう。個人的には作者の遺言どおり、田村高廣(この人も必殺シリーズで主役を張ったことがあるのだが)に演じてほしかったのだがなぁ。大治郎役の山口馬木也は、まあまあ良かった(渡部篤郎はちょっと……)が、三冬に大路恵美というのは、いかがなものか。可愛いけれど強そうに見えない。途中で寺島しのぶに代わったのもどうかと思う。歌舞伎方面から連れてくるのなら、松たか子の方が良かったのに。



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