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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

甲賀忍法帖

山田風太郎  1958年

忍法、人間蜘蛛ッ!

 甲賀卍谷と伊賀鍔隠れ……峠ひとつ隔てて潜む一族は、ともに服部半蔵に率いられる忍者群同士でありながら、源平の昔より数百年、互いに憎悪を抱く不倶戴天の敵同士でもあった。現在は服部の統制下、両門争闘の禁制によりかろうじて和平を保っており、また、甲賀組の首領甲賀弾正の孫イケメン弦之介と伊賀組の頭目お幻の孫娘カワイコちゃん朧は恋仲にあることから、長きに亘った甲賀と伊賀の確執も解けるかと思われた。時に慶長19年。徳川家康は、秀忠の跡を継がせるのを、兄とはいえ暗愚な竹千代にすべきか、聡明とはいえ弟の国千代にすべきか悩みぬいていた。懊悩の末、家康は、甲賀、伊賀の忍びに恐るべき使命を与える。甲賀と伊賀の忍びを対決させ、勝った方に賭けたものを三代将軍にすると決めたのだ。伊賀は竹千代、甲賀は国千代である。かくして、20人の忍者たちが秘術を尽くして死闘を繰り広げることとなる……。

 というわけで、これこそ一世を風靡した風太郎忍法帖シリーズ第一弾。ここから、あの変幻自在の発狂ワールドが始まったのかと思うと感無量です。しかし、さすが第一作だけあって中身は意外とマトモです。いや、マトモと言っても、腹が蛇腹になってて、それでもって動き回れる地虫十兵衛とか、保護色使って姿を消す(本当に保護色を使うんですよ)霞刑部とか、挙句の果てには殺しても死なない薬師寺天膳とか、最早忍法でもなんでもない能力を使いまくりの異常体質の皆様がうじゃうじゃ登場するので、「どこが忍者やねん!」との突っ込みもゴモットモのフリークス大見本市みたいなことになっております。これをしてマトモな時代小説といってしまっては、他の作家が書いているのは何なのか、そもそも「時代小説」というのはどういうジャンルなのか、ということになってしまうのですけどね。いっそ「風太郎の忍法帖」が一つのジャンルである、と言い切ってしまった方が分かりやすいのかもしれません。

 この作品は、風太郎の後期作品に顕著に見える「ナンデモアリの爆裂パワー」や「どれだけ馬鹿馬鹿しいことを書けるかに挑戦」というような要素はまだ薄くて、忍法(とはトテモ思えないが)にもキチンと(しているとも思えないが)理屈がつけられていたりします。そもそも本作は、ロミオとジュリエットのように敵味方に分かれた恋人同士の恋の行方というドラマが盛り込まれており、後期作品と比べると忍者の忍術合戦が前面に出ていないので、比較的スマートな印象を与える作品です。日本史を勉強した良い子なら、徳川三代将軍が誰なのか知っているので、したがって、最終的に甲賀と伊賀のどっちが勝ったのか分かるんですが、決着に至る展開は無類の面白さで、矛盾した言い方になりますが、絶対に先を読ませません。

 時代小説なんて辛気臭くて……というあなた、往年の少年ジャンプ連載マンガ、『聖闘士星矢』とか『ジョジョの奇妙な冒険』とか、ああいう異種格闘トーナメント戦の元ネタだと思えば手に取りやすいでしょ?とにかく一度読んだらやめられない、読んだら最後、更にエスカレートしていく他の作品も読まずにいられなくなる、そんな魔力を持った作品です。


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