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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

フォックス家の殺人 THE MURDERER IS A FOX

エラリイ・クイーン  1945年

では、わたしに真実を聞かせていただきましょう、クイーンさん

 デイヴィー・フォックス大尉は太平洋戦争で華々しい戦果を上げ、空軍の英雄として故郷ライツヴィルに凱旋した。しかし、彼の精神は、戦争によってズタズタになっていた。また、戦争によって受けた心の傷もさることながら、12年前に起きた父親による母親毒殺事件も彼の精神を苛んでいた。ある夜、彼は無意識のうちに妻リンダの首を絞めようとしてしまう。戦争の異常体験が、過去の忌まわしい事件の記憶を呼び覚ましたのか。自分には人殺しの血が流れているのか。思いあまった大尉と妻は、エラリーに12年前の事件の再調査を依頼した。服役中である父親の無実を証明し、大尉の心の病を癒すため、エラリーは12年という時間の壁に挑戦する。

 デビュー当初は文字どおりの純粋パズラー、「推理の一問題」として国名シリーズなどを書いていたクイーンが、「犯罪の倫理面」に目を向け始めた時期の作品です。架空の町ライツヴィルを舞台にした、これらの作品を通じて、クイーンの作風は大きく変わっていきます。登場人物の心理等に重きが置かれるようになって、エラリーは、以前のように事件の謎を一刀両断、情無用で真相暴露なんてことができなくなり、うじうじ悩み始めます。本作は、ライツヴィルを舞台にした作品としては2作目に当たるのですが、前作『災厄の町』が、各種ランキングにも顔を出すのはもちろん、我が国でも『配達されない三通の手紙』として映画化される(でも脚本が『原爆の子』の新藤兼人、監督が『砂の器』の野村芳太郎だったせいで重苦しくって面白くなかった)ほどの人気を博しているのとは大違いで、あまり話題になることもなく、この後に書かれた重厚な傑作『十日間の不思議』との間に挟まれて可哀想なものです。ハッキリ言って、確かに地味です。いぶし銀。前田吟。あぁ、こんな駄洒落なんか言うために私は教員免許を取ったのだろうか。まぁ教育実習に行っても授業なんかほとんどせずに、50分のうち40分は雑談で済ませて、定時より5分早く終了するような不良実習生でしたが。担当教諭は二日酔いで職員室に籠りっきりだったので、好き放題でした。でも、これで生徒のハートはばっちりゲット。でも、残念なことに条例違反なロマンスなんか皆無で、今では立派なペーパー・ティーチャー。

 それはさておき、扱う事件が現在進行形でないせいか、なんともいえない静かで落ち着いたムードが全編を覆っているのが、いつもと違って新鮮です。それでいながら、しっかりばっちりドンデン返しの二重解決を用意してくれているあたり、さすがクイーンの面目躍如で、決して他の作品に引けを取るものではありません。ラストで明かされる真相が、結構イヤな内容なのに、爽やかな読後感を残してくれるのもポイントが高く、隠れた傑作と呼ぶにふさわしい佳作です。