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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

スペイン岬の謎 THE SPANISH CAPE MYSTERY

エラリー・クイーン  1935年

ふとって、気違いじみて、40歳

 クイーンの国名シリーズは全部で9作あり(日本では『THE DOOR BETWEEN』を勝手に『ニッポン樫鳥の謎』というタイトルで訳して、10作と数えていますが)、中でも評判が良いのは第3作『オランダ靴の謎』、第4作『ギリシア棺の謎』、第5作『エジプト十字架の謎』あたりでしょうか。オランダが1931年、ギリシアとエジプトが1932年発表なのですが、1932年は『Xの悲劇』『Yの悲劇』も発表された年で、クイーンは信じられないほどノリノリ、イケイケだったのです。さて、これは1935年に発表された国名シリーズの最終作ですが、シリーズ中1、2を争う傑作だと思います。

 ローザ・ゴッドフリーと伯父のデーヴィッド・カマーは、謎の大男に拉致されてしまう。しかも、カマーは、ジョン・マーコという男と間違えて連れ去られてしまったらしい。ローザは小屋に閉じ込められるが、翌日、エラリーらによって無事に発見される。しかし家に帰ると、スペイン岬と呼ばれる花崗岩塊の突端にある別荘の海辺で発見されたのはジョン・マーコの死体。死体は素っ裸の上にコートを羽織っていた。事件の発生当時には、スペイン岬の所有者ゴッドフリー家には、一癖ありげな客達が招待されていたうえに、三人の未知の人物まで加わっていたらしい。果たして事件の真相は?

 素っ裸の死体だからケッ作と洒落たわけではありませんよ。裸にマントだけを羽織っていた死体という、映像を想像すると笑ってしまうようなバカバカしい謎の方が吸引力があるというのは何故なのでしょうか。やっぱり後にモットモらしい解決がなされると信用しているからこそ、謎はバカバカしい、と言って悪ければ、突拍子もないものの方がよいのでしょうね。ミステリをある程度読み込んでいる人なら、比較的簡単に真相が分かってしまうと思いますが、分かったからいいってものではなく、いかにして辿り着いたかを問うのがクイーンのミステリです。犯人が死体を裸にし、その上にマントだけを羽織らせておいた理由そのもの(唖然呆然の真相)もさることながら、裸の謎を論理的に説いていく過程をこそお楽しみください。そして、「僕は犯罪の倫理面には興味がない」と言っていたエラリーの変化にも御注目ください。

 ところで、原題『THE SPANISH CAPE MYSTERY』の「CAPE」は、「岬」と「ケープ(マント)」のダブルミーニングになっています。『オランダ靴の謎』の章題の語尾といい、『ギリシア棺の謎』の章題の頭文字といい、こういうところがオシャレで嬉しくなりますね、そういえば、誰の何という作品なのか完全に忘れていますが、章題の頭文字をつなげると犯人の名前になるという趣向も見たことがあります。こういう遊びもミステリの楽しみの一つです。