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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

エジプト十字架の謎 THE EGYPTIAN CROSS MYSTERY

エラリー・クイーン  1932年

唯一適正な解決には「もしも」も「しかし」もない

 これぞ私を推理小説マニアの魔道に引きずり込んだ元凶……というと聞こえが悪いけれど、とにかく、これを読んだおかげで(せいで?)現在の私があるといっても過言ではないほどの大傑作。その昔、あかね書房版を図書館で見つけたのが運の尽き、本格ミステリの面白さに目覚めさせられてしまったわけです。考えてみれば、図書館というのはありがたいところです。しかし、そんな聖なる場所で不埒な行いに走る輩もいるのです。

 クイーンには『Yの悲劇』という作品がありますが、あれも最初は図書館で借りました。長らく世界ベストワンの座に君臨している大傑作であるという評判だけは聞いていたので、それはそれは期待して読み始めたのです。まず、巻頭の登場人物紹介欄から読み始めるわけですが、ある人物の名前に赤丸が付けられていたわけです。……お分かりですね?これを悲劇と呼ばずして、何と言いましょう。本を大切に扱わないどころか、カバーを栞代わりに使ったりするだけでも許せない私なのに、中に落書きして、しかも犯人をばらすとは何事か。個人持ちの本ならいざ知らず、図書館の本ですよ。税金で購入された本ですよ。断じて許し難い。こんなことをやるような奴は、どうせ知能指数が0.3くらいしかない低能、魯鈍、白痴野郎に決まっていますが、そんな奴のために真っ当に生きていた私が、なんで悲惨な思いをさせられなきゃならないのでしょうか。思い出しただけで腹が立ってきた。

 さて、これはクイーンの国名シリーズの5作目で、後期作品のようにうじうじ悩んだりせず、「僕は犯罪の倫理面には興味がない」と言い切り、事件を「論理の一問題」と割り切っていた頃の作品です。ウェスト・ヴァージニアの片田舎アロヨで残酷で奇妙な殺人事件が発生します。T字路に立つT字型の道標に磔にされたT字型の首なし死体。そして被害者の家の扉にはTの血文字とT尽くしであることから、マスコミは「T殺人事件」と名付けて騒ぎます。半年後、再び「T殺人事件」が発生、エラリーは捜査を開始しますが、まったく手がかりがつかめません。首なし死体となった小学校長、百万長者、スポーツマン、そして未知の男の秘密とは一体何か。ついに匙を投げたと思われたエラリーは、ある一つの事実から、恐るべき真相を嗅ぎ当てるのですが……。

 というわけで、首なし死体の磔が連発という、極めてキャッチーで心躍る作品です。おまけにラストには愛車デューセンバーグと近代高速交通機関による550マイルの追跡劇というアクションシーンまでついています。だからといって単なる活劇であるはずがなく、ある品物に関連した見事な推理は全ミステリファンの語り草、「あっ」と驚く幸せを味わえます。とにかく、まだ読んでないなら今すぐ入手しましょう。どこかのキチガイにネタバレされないうちに、可能な限り早い段階で読んでおくことを強くお勧めします。