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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

黄色い部屋はいかに改装されたか?

都筑道夫  1975年

若きミステリ評論家よ、この分かりやすさを体得せよ

 かつて、ぼくたちを夢中にさせた名探偵はどこへ行ったのだろうか?あのワクワクする謎解きの楽しさはもう味わえないのだろうか?本格推理小説の名手である著者が、エラリー・クイーン、ヴァン・ダイン、横溝正史などの古典から現代ミステリまで、さまざまな作品を縦横に論じて、推理小説の本当の面白さを切れ味鋭く解剖した画期的長編評論。

 都筑道夫と言えば、これを外すことは出来ませんね。瀬戸川猛資『夜明けの睡魔 海外ミステリの新しい波』(1987年)、千街晶之『水面の星座 水底の宝石 ミステリの変容をふりかえる』(2003年)と並んで、本邦三大ミステリ評論の一つで、お手本にしている評論家もたくさんいると聞く。そのうちの一人が、作家兼評論家の笠井潔で、彼の主催する探偵小説研究会でもテキストに使っているらしい。そのわりに、笠井の評論が読みにくいのは何故なのだろうか。内容もさることながら、文章そのものが、わざと難解な言い回しを使って悦に入っているように見受けられる。『ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?』と本書にならっていながら、ちょっと高級感を漂わせてやろうというスケベ心が滲むタイトルが、すべてを物語っているような気がする。それとも、元左翼だから、「労働者階級は、三無ファシズム解体の全人民的政治行動を湧き起こし、社会主義文明で全国、全戦線をおおいつくせ!」とか「肥大化せる軍需寄食帝国主義と闘う全人民的政治生活の歴史的転換を切り開け!」とかいうようなアジビラの文章が身につきすぎているのだろうか。マスかきっこ世に憚る。

 憚るといえば数年前、「間違いだらけの笠井潔」とか言われてブチ切れて、『このミステリーがすごい!』の覆面座談会と喧嘩して話題になったが(話題になったのかな?……あれって結局、笠井と同じく探偵小説研究会に所属する千街晶之が、同じ会のメンバーとは思えぬ公正かつ公平な視点で総括して、美味しいところを一人で持っていって終わったのではなかったか)、あのときにも覆面評論家から「笠井の文章はわかりにくい」と指摘を受けていた。覆面座談会の言うことが、すべて正しいと思っているわけではないけれど(覆面座談会がなくなってから、『このミス』を読まなくなったのも事実だが)、この点に関しては深く深く同意する。評論家たるもの、読者側の知識とか理解力とか、そういうものの前に、まず文章の読みやすさというものを重視しなくちゃいかんと思うのだが。小説なら、難解な文章も値打ちのうち、なんてなことも言えるかも知れませんが、評論は理解させてナンボですからね。ということも、この本の中には書いてあるのに、読んでいないのだろうか。都筑の、この文章の読みやすいこと、分かりやすいこと!笠井には都筑の爪の垢でも煎じて飲んでほしいものだ。


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