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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

魍魎の匣

京極夏彦  1995年

この世には不思議なことなど何もないのだよ

 押しも押されもしないベストセラー作家ですが、実は私、この人の作品をあんまり買ってないんです。世間に衝撃を与えたデビュー作『姑獲鳥の夏』にしてからが、「それを言っちゃあ、おしめぇよ」な禁じ手のオチだったし、そもそも無駄に長い。その長いミステリ以外の部分が面白いのだという評価もよく聞きますが、だったらミステリである必要はないじゃないか。同じ頃に『すべてがFになる』でデビューし、京極ともどもミステリの歴史を塗り替えるといったような評価をされた森博嗣も、「現実とは何か」とか、そういうゴタクを並べているところは面白くて、ゴタクだけをちょっとコミカルな感じに仕上げたら、人生幸朗と上岡龍太郎を読むといった感じの面白いものができるんじゃないかとは思いますが、肝心の推理小説としては、京極のレベルにすら達していないというのが私の評価です。さて、妖怪シリーズ第2弾にして最高傑作、それがこの『魍魎の匣』です。

 多摩を中心に、バラバラにされた死体が、頑丈な「匣」に隙間なく詰められて発見されるという猟奇事件が発生していた。そんな折、クラス一の秀才で美少女の柚木加菜子は、中央線武蔵小金井駅のホームから何者かに突き落とされ、列車に轢かれてしまう。偶然その列車に乗り合わせていた刑事・木場修太郎は病院に向かうが、加菜子は手の施しようがない程の瀕死の重傷を負っていた。「加菜子を救える可能性があるところを知っている」という家族の意志で、加菜子は病院から連れ出される。一方、猟奇事件を取材する中禅寺敦子と、それに付き合っていた関口巽、鳥口守彦は森の中で道に迷ううちに謎の建造物を見つける。それは正方形の巨大な、まさに「匣」だった。これこそが、加菜子が高度な集中治療を受けている謎の研究所だった。しかし、厳戒態勢の中、治療を受けていたはずの加菜子が忽然と姿を消してしまう。

 箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物……実に魅力的な設定の数々。シリーズを読み進めている人からすると、脅威の超探偵、榎木津礼二郎の活躍が少ないのが物足りないかも知れませんけれど、そこはまぁ、ちょっと我慢していただきましょう。乱歩の「押絵と旅する男」のエキスも振りかけて描かれるのは、よくもまぁ、こんなこと大真面目に書くなぁという途方もなくスケールのでかいホラ話。しかし、あの大仰な雰囲気で書かれるのだから、これくらいバカバカしくなけりゃ物足りないというもので、厚みにふさわしい面白さです。シリーズはこの後、どんどん分厚くなっていきますが、面白さが比例しているとは言い難く、やはり本作が頂点だったのかなぁと思います。


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