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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

星降り山荘の殺人

倉知淳  1996年

一文字たりとも読み落とすべからず

 責任逃れと後輩への嫌がらせを繰り返すクソ上司を殴ってしまった杉下和夫。当然ながら左遷され、美貌と気障な言動で女性に大人気のタレント文化人、「スターウォッチャー」星園詩郎のマネージャー見習いを命じられる。最初の仕事は、人里離れた埼玉県秩父郡小鹿野町渡河里岳の山荘への出張。そこには不動産開発社長とその部下、UFO研究家、売れっ子女流作家とその秘書、女子大生2人組など一癖も二癖もある人物たちが招かれていた。ところがと言おうかやっぱりと言おうか、その夜、雪崩で外界との交通が遮断され、電気も電話も通じない陸の孤島と化した山荘で殺人事件が発生する。おろおろするばかりの杉下を助手に、星園の華麗なる推理が始まった!

 久しぶりに「ああ、推理小説を読んだなぁ」と思わせてくれた作品です。雪の山荘、連続殺人、奇人変人揃いの関係者、その中でも飛びぬけて奇妙な美青年が推理を語りだす、というコテコテの古典的舞台を用意して、全編から作者の「騙してやるぞぉ」という意気込みがビシビシ伝わってきます。推理小説とは、作者と読者の楽しいゲームだということを再確認させてくれます。ここのところが実は一番大切な要素なのです。ひとりよがりのメタだのアンチだのは糞食らえざます!お上品に言うならば、排泄物お召し上がりくださいませざます!

 本作は都筑道夫の『七十五羽の烏』に触発された作品とのことです。これは、都筑が、名著『黄色い部屋はいかに改装されたか?』で提唱した「モダーン・ディテクティブ・ストーリー」、論理のアクロバットと名探偵の復活を実践した作品として評価が高いものです。ちなみに、私は、そんなに好きな作品ではないんですが。これに限らず、都筑が「モダーン・ディテクティブ・ストーリー」として書いた長編群は、カッチリしているけれど、地味で華がなくて読みにくくて、あんまり好きではないのです。都筑は短編か、トリッキーな長編(『猫の舌に釘をうて』とか『三重露出』とか)の方がいいですね。それはさておき、都筑が「作者は文中で(見出しも含めて)、ひとつも嘘をつきません。そして事件解決の手がかりは、すべて読者の前に明示されます」と大見得を切った『七十五羽の烏』と同様、本作でも作者のフェアプレイが光ります。あんまり詳しく書くとネタを割ってしまうのでなんなんですが、とにかく書いてあることは全部きちんと読んでおかないと、思いっきり背負い投げをくらわされますよ。おまけに軽めのテイストで読みやすいのも魅力です。ああ、これから読む人は幸せだなぁ。羨ましい。


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