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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

手紙

東野圭吾  2003年

俺たちでも幸せになれる日が来るんだろうか

 両親を亡くし二人暮らしの剛志と直貴の兄弟。剛志は、「弟だけは、なんとしてでも大学に進学させてやりたい」と懸命に働く。けれど、働きすぎて体を壊した剛志は職を失った。そんな時にふと思い出したのが、引っ越しの仕事をしていた時に知った、金持ちの老婆。盗みに入った剛志は老婆に見つかり、はずみで殺してしまった。判決は、懲役15年。刑務所に入った剛志と、殺人者の弟として世間に残った直貴。進学を諦め、住み込みの仕事に就くのだけれど、兄のことが知れると働き続けることができなくなった。順調にいきかけた仕事も、恋愛も、「強盗殺人犯の弟」というレッテルによって、次々と失っていく。そんな状況を知らない兄からは、毎月、刑務所での生活や弟の安否を気遣う手紙が届く。弟の何もかもを知った上で、理解してくれた女性と結婚するのだけれど、子供ができた後に兄のことが知られると、子供の友達が居なくなった。自分だけなら、まだ耐えられたかもしれない。妻も理解してくれていた。けれど、幼いわが子にまで、その影響が出るとなると……。

 加害者の家族にスポットを当てた作品というのは、あんまり読んだ記憶がないですな。すごいところに目をつけたものです。「加害者の家族も、また、被害者である」なんて一言で済ませられない重い物語。ストーリー展開に「読めてしまう」部分があったり、「ありきたりな展開」なんて批判を喰らってしまうであろう部分もないではないけれど、これはやっぱり力作です。どこにも逃げ場がない。とことん追い詰められる。やり場のない怒りをどこにぶつければいい。直貴に感情移入して読むと(って大抵の人はそうだと思うけれど)、もぉどうすりゃいいんだと死にたくなります。いっそ殺してくれって気分になります。本当に、こういう立場に立った人は、一体、どうやって世間と折り合いをつけているんでしょうか。考えさせられることがとても多いです。

 余談ですが、私は、人権なんてモノは、誰にでも等しく与えられていたり、ましてや無条件で守られたりするものではないと思っている。どっちかっつーと、世間に人権なんぞというものが、概念としてだけでも存在すること自体に腹を立てているタイプである。同和行政というものに携わった経験から断言するけれど、「人権を守ろう」などと言う輩にろくな奴はいない。まぁ、私の体験というのは、世間一般の人には衝撃の連続だと思いますよ、本当に酷いんだから。そんな特殊な体験しなくても、例えば学校とか職場とかで、権利を主張する奴ってのは、大抵義務を果たしていない奴だというのは、よく見聞きされているのではありませんか。労働組合の組合員とかさ、仕事しているところを見たことないよな。そんなわけで、この物語に出てくる爺さんの台詞とか、ラストの主人公の選択は、私としては非常に「腑に落ちる」ものなのである。しかし、よくもまぁ、こんな重たい話を書くよなぁ。タイトルの付け方も絶妙の傑作です。


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