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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

戻り川心中

連城三紀彦  1998年発売

ハルキ文庫でしか読めない名編集版!

 大正歌壇の寵児、イケメン苑田岳葉は桂木文緒と心中を試み、失敗する。岳葉はそのときの心の過程を詠んだ「桂川情歌」を発表。絶大な評価を受ける。しかし、約一年後、岳葉は千代田川にて依田朱子と心中。岳葉は命を取り留めるが、朱子は亡くなる。岳葉もまた事件から三日後、「菖蒲歌集」を遺して自害する……。岳葉が真に愛したのは?女たちを死なせてまで彼が求めたものとは?滅びの歌に秘められた謎とは?私は事件の裏には秘密があると感じ、岳葉の心の動向を調査し始めたが、行き着いたのは彼の歌人としての人生の意外な真実だった……。

 連城三紀彦の代表作にして大傑作「戻り川心中」をはじめ、「藤の花」、「菊の塵」、「桔梗の宿」、「桐の柩」、「白蓮の寺」、「花緋文字」、「夕萩心中」と、1978年から1982年にかけて発表された、世に言う「花葬」連作(連作とはいっても、いわゆるシリーズものではありません)……著者の最高傑作の誉れも高きこの連作全8作を完全収録した初の文庫本で、これぞ推理小説ファン待望、垂涎の一冊です。この作品群が文庫一冊で手に入るなんて、いい世の中になったもんだなぁ。しかも、表紙は香気漂う宇野亜喜良の作品。やってくれるねぇ、ハルキ文庫。痒いところに手が届く、つぼを押さえまくっているハルキ文庫、立派です。この頃のハルキ文庫はとにかく頑張っていて、山田正紀の『人喰いの時代』を出したり、小松左京の『日本アパッチ族』を出したりと、なかなか注目の文庫だったんです。角川文庫との関係はよく分からんのですけどね。

 角川文庫ってのは映画化したら表紙を変えるわ(しかも趣味の悪い装丁で)、すぐ廃版にするわで最低な文庫ですね。角川が絶版にした本を、でかい活字で出し直す光文社文庫もよく分かりませんが。絶版本だけじゃなく、他の出版社から今でも発売している本をすぐ後追いで出したりしますからね。いくら出版点数が増えたって、同じ本が何種類も出てたって意味ないのに、出版事情ってのは謎ですね。ハルキ文庫は、他所が出していない、しかも、名作といわれながらなかなか入手できない作品を出していましたから、立派なもんです。最近チト精彩を欠いていますが、もっともっと頑張ってほしいもんですね。

 というわけで、この素晴らしい連作を読める幸せを味わっていただきましょう。トリッキーという言葉が、単に絢爛豪華な(こけおどしの)トリックが使われているということではないのだな、ということが良く分かる、真の意味で心に迫る作品群。それにしても、こういう美しい文章、美しい物語を読むと、「日本の」推理小説ファンで良かったと、つくづく思いますね。結局、小説というのは、ミステリであれ何であれ、つまるところは「文章」なのですな。


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