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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術

泡坂妻夫  1987年

読み終わると衝撃を通り越して感動する

 突然ですが、京極夏彦は、文章がページをまたがったりすることがないように、本の段組み、改頁位置に合わせて文章を書いているそうです。あの長くて重くて読むだけで腕が鍛えられるミステリ界のビリーズブートキャンプとも呼ばれる小説は、書くだけで相当の労力を費やしているのは想像に難くない(読む方もかなり疲れますけれどね)のに、読者のためにそんな配慮がされていて、更に文庫化される時には、改めて文章を調整しているとのことです。持っているだけで負担だから、せめて楽に読んでもらおうということなのか知りませんが、なかなか出来ることではないですし、立派な姿勢だと思います。実際、読みやすさは格段に違いますからね。思いついても普通は手をつけない面倒な作業なのに、作家というのは、ここまで凝るものなのかと感心したエピソードでした。

 しかし!凝ることでは誰にも負けない泡坂妻夫は、それをぶっちぎりで超えてしまいました。この『しあわせの書』には驚くべき仕掛けが施されています。「凝っている」なんて言葉じゃ表現しきれない。どのくらいの労力が使われたのか、想像するだけで恐ろしい。こういう職人魂には頭が下がりますね。これこそ「遊び心」の真髄ですね。それが、どんな仕掛けなのか、これは実際に手に取って味わってもらうのがよいでしょう。て言うか、そんなネタバレ畏れ多くてできません。とにかくビックリしますから。いやホントに。

 舞台となる惟霊講会は、戦後巨大化した宗教団体。桂葉華聖という教祖が立ち上げたもので、日本でも五本の指に入るほどの団体となっている。恐山でイタコだと間違われて適当な口寄せをしてしまったガンジー先生は、二人の弟子とともに、ひょんなことからこの惟霊講会と関わることになってしまった。死んだはずの惟霊講会の信者たちの姿が、死後も目撃されているという話を相次いで耳にした彼らは、惟霊講会内部に潜入。後継者問題に揺れているらしい惟霊講会内部で、後継者を決めるためのある試練が行われようとしているらしいのだが……。

 というのがストーリー。正直言って、ミステリとしての評価は、そんなに高くはありません。泡坂妻夫には、他にもっと優れた作品がたくさんあります。ですから、これはマジシャン厚川昌男の作品として驚くべきものでしょう。作品中に登場する「しあわせの書」という布教のための小冊子。41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズの本。おや、今あなたが手にしているのも……あぁ、ここまでが限界。これ以上は言えない。何も言えない。話しちゃいけない。