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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

夜明けの睡魔 海外ミステリの新しい波

瀬戸川猛資  1987年

私もいつかここに取り上げてほしかった(宮部みゆき)

 様々なタイプの作品が陸続と出現し、昔の単純なジャンル区分では捌ききれなくなってきた現代ミステリ。「パラダイムの転換」は推理小説の世界でも着実に進行しつつあるのだ。こういう混沌とした状況のなかで、本当に面白い作品を独特の語り口で紹介しようと試みた俊英、瀬戸川猛資の代表的著作。

  1980年から『ミステリマガジン』誌上に連載された海外ミステリのガイドをまとめたもの。瀬戸川猛資は、早稲田大学の「ワセダミステリクラブ」OBで、北村薫や折原一の先輩に当たる。在学当時から、膨大な読書量に裏打ちされた知識と突拍子もない着想で、独特の海外ミステリ評論を手掛けていたそうだが、こういう正しいオタクがいてくれたことは、我々ミステリファンにとって、とてもありがたいことである。これほどまでに「読ませる」ガイドブックは、そうあるものではない。「読ませる」といっても、難しいことが書いてあるとか、分量が多いとかいうわけではなく、むしろ、その逆で、短いページ数に、非常に分かりやすく読みやすい言葉で作品紹介されており、まさに「簡にして要を得た」ガイドである。私なんか何回読んだか知れない。この人のミステリ関連の著作が、これと『夢想の研究 活字と映像の想像力』くらいしかないのが実に残念だ。宮部みゆきじゃないけれど、日本のミステリについての評論集も読んでみたかった。

 もちろん、中には、そんなに騒ぐほどの作品でもないだろう、というものもある。私は、P.D.ジェイムスやコリン・デクスターが,それほど面白いとは思わないし、北村薫は、瀬戸川が「10年に一度の傑作」と持ち上げた『ホッグ連続殺人』を貶している。しかし、それは、個人の好みもあるのだから仕方がない。肝心なのは、「夜明けまで睡魔を退散させてくれる面白い本を紹介する」この本が、そこで紹介されている本よりも「夜明けまで睡魔を退散させる」魔力を持っているという事実である。なにしろ、ここで紹介されている本は、みんな読みたくなるのだ。解説を書いている法月綸太郎は、それを「魔法」と呼んでいるが、まさにそのとおり。現在、この人に匹敵する魔法の筆力を持っているのは、映画秘宝系のライターくらいだろう。現に今、私の手許には、これを読んで興味を持ち、図書館で借りてきた『まっ白な嘘』がある。海外ミステリなんて、いわゆる古典以外はほとんど読んだことがない私にしてこれだから、普通のミステリファンにはたまらない評論集のはずである。

 最近の本には興味もないし、ガイド自体にも手が出にくいという方には、後半に収録された「昨日の睡魔/名作巡礼」がお薦めである。これは、いわゆる古典をネタにしているので、最近の作品に御無沙汰の人でも、ニヤニヤしながら読めるはずだ。というわけで、文庫本にしては少々お高い本ではあるが、すぐに買ってきて読みなさい。それだけの値打ちがある。高いだけあって紙質も良く、表紙の手触りなんか堪えられません。


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