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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

二の悲劇

法月綸太郎  1994年

卒業写真のあの人は

 京都で思いがけず再会した高校時代の同級生、葛見百合子と二宮良明。しかし、それが悲劇の幕開けだった……。世田谷のマンションで、OLの清原奈津美が顔を焼かれて殺される。三角関係にあったルームメイトの女、葛見百合子が逃亡していたため、事件は単純な怨恨殺人と見られた。二人は高校時代の同級生であり親友。同じ化粧品会社に勤務し、編集の仕事をしていた。噂では葛見百合子の恋人が清原奈津美に乗り換えようとしていたらしい。しかし、検死の結果、彼女は小さな鍵を飲み込んでいたことが判明する。このことを不審に感じた法月警視は、息子で小説家の探偵、綸太郎に捜査を促す。小さな鍵が秘めた謎とは?綸太郎が出馬した矢先、容疑者は京都で死体となって発見、そして鍵の正体が明らかになるにつれ、名探偵を翻弄する迷宮の扉が開いた……。

 長編としては『ふたたび赤い悪夢』から2年ぶりとなる作品。この作品の特徴は、二人称で書かれたことの効果が云々かんぬんなんてことではなくて、法月(作者の方)の女々しさが見事に生かされていることですな。あ、この「女々しい」という単語に引っかかって、やれ差別だなんだと騒がぬように。これ以外にピッタリの表現を思いつかないもんで。それはさておき、つまらぬことに一人でくよくよ悩み、うじうじするだけで行動に移せず、そのくせ理屈っぽく正当性を求めるという、傍で見ているとイライラするだけの男、それが法月(作者の方)ですね。会ったこともないのに断言してしまうのもどうかと思うけれど、職業作家とは思えぬ創作ペース(なにしろ、この次の長編は10年後の『生首に聞いてみろ』)、あとがきやなんかに書かれる愚痴を見ていると、どう好意的に解釈しても「女々しい奴」としか思えん。まぁ、面白い本さえ書いてくれるのなら、この人がどんな性格でも別に構わないのですけどね(って、書いてくれないわけだが)。それに「女々しい」というのは、なかなか侮れない要素で、「若さゆえの戸惑い、逡巡」なんてものと似ているから、青春モノや恋愛モノと相性が良い(意外やハードボイルドにもしっくりくるんですよ)。で、いつもは法月探偵が一人でうじうじしているだけだけれど、今回は、この「女々しさ」が物語の重要なファクターになって、読んでいるこちらが痛みを感じるほどに切ない恋愛ミステリに仕上がっております。ユーミンの「卒業写真」まで使って、もぉ女々しさの大盤振る舞い。これこそ、自らの資質を十分に生かした作品というものでありましょう。というわけで、この女々しさを大いに堪能してください。衝撃の真相は涙なしには読めません。しかし、もう歳(1964年生まれ)なんやから、腹を括らんとあかんな、この人。それはそうと『一の悲劇』って作品もありますが、法月探偵が出てくるだけで、本作とは関係ありません。シリーズってわけじゃないので、順番に読まなくてもいいですよ。


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