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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

よりぬき じみへん【20世紀版】

中崎タツヤ  2003年

爺と婆の夜の営みを描いた話が素晴らしい

 ビッグコミックスピリッツで、なんと15年も連載を続けている15コマまんが『じみへん』。なんなんでしょう、15コマって。中途半端やなぁ。しかし、このコマ数の違いこそが、他の不条理マンガと一線を画す重要な要素なのである。このコマ数のおかげで、不条理漫画ブームの頃に登場したにもかかわらず、他のマンガと違って条理を徹底的に突き詰めるスタイルで(要するに理屈っぽい)、登場人物が議論したり自問自答したりする描写を妙に多くし、一発ギャグに頼らずに済むスタイルを確立することに成功したのです。それにしても、流行りましたねぇ。吉田戦車の『伝染るんです。』をはじめ、中川いさみの『クマのプー太郎』とか榎本俊二の『ゴールデンラッキー』なんていう4コママンガが。今では影も形もありませんな。あれって、極めて理解しがたいオチ、明後日の方向から持ってきたオチ、そもそも落ちているのか分からないオチを書き連ねていて、最初は新鮮でしたけれど、飽きられるのも早かった。ある意味、ダウンタウン松本の芸風に似ていますね。あの人も浜田の突っ込みなしでは世間に理解されなかったはずだし、今じゃネタなんて全然やってないし、すっかりただの司会者みたいになっちゃって、往年の輝きはなくなっていますからね。

 それはさておき、このマンガはコマ数が多いだけ、妙な間を持っていて、それが何ともいえない味わいを醸しだしているのが特徴。起承転結の「転」が無い(あっても「承」との落差を殆ど感じさせない)まま淡々と進み、なんて言うか、人生の悲哀みたいなものが読むものの心にひたひたと染み渡ってくるんですね。『じみへん』というタイトルは、もちろん天才ギタリスト、ジミ・ヘンドリックスの愛称のいただきなんでしょうけれど(ただ、そのつながりはまったく不明)、『地味変』とか『滋味変』って意味も察せられますな。とにかく、ただの不条理マンガとは違って、ペーソスって奴を感じさせる作品です。

 これは、1989年の連載スタートから約10年の傑作を選び抜いた20世紀版総集編。コタツに入って背中丸めてミカンなんか食べながら、しみじみと味わっていただきたい。しかし、15年も続いてるのかぁ。継続は力なりって言うけど、絵は全然上手くなってない。いわゆるヘタウマに分類されるタイプの絵ですが、それが日常に潜むちょっとしたネタを見事に笑いに転換する能力を持っています。今時珍しく台詞も手書きだけど、字も下手。迫力が増したとか面白さが倍増したとかいうことは一切なく、ただ続いているだけっていうのもすごいなぁ。この後、何年続くか分かりませんけれど、多分最後まで同じ程度で続いていくのだろうなぁと思わせる変な作品です。


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