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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

水面の星座 水底の宝石 ミステリの変容をふりかえる

千街晶之  2003年

最も新しく最も根源的な、至高のミステリ評論

 推理小説の評論は、いろんな人が書いていますけれど、やはり読みやすくなくてはいけません。どんなに立派で小難しいことを考えていても、それを分かりやすく噛み砕いて語る能力がなければ評論家としてはダメなんです。と言うと、それは笠井潔を腐しているのかと問われそうですが、そのとおりです。あいつはダメです。私が面白がれたのは『テロルの現象学―観念批判論序説』『復讐の白き荒野』くらいなもので、後は惨憺たる有様です。もっとも小説は好みがあるから、矢吹駆シリーズが世間で大絶賛でも構わないのですが、都筑道夫によるミステリ史に残る偉業、大傑作評論『黄色い部屋はいかに改装されたか?』の後を引き継ぐ意気込みの『ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?』については、ちゃんちゃらおかしいとしか言えますまい。「大量死理論」だけにしがみついて、後は何を言っているのかサッパリわからない難解な言葉の羅列で、とても読めたものではなく、「小説はともかく、評論は読みやすくなくてはいけない」という都筑の言葉を完全に無視しています。オタクの悲しい習性として、蓄積した驚異的な知識を飾りたててひけらかしたいというのは分からなくはないけれど、それを無知蒙昧な大衆の皆様に提供して飯を食うのだという自覚が著しく欠如しておりますね。

 同じく、笠井潔一族(現在は、笠井は脱退しているようだが)の探偵小説研究会メンバーの評論も、難解な言い回しに酔っているのではないかと思われる節があるのですが、同会メンバーでも、千街晶之の文章は信じられないくらい読みやすい。「同じ穴のムジナ」という言葉が意味を失うほどで、本当に同会に所属しているのか疑われるほどです。その知識、着眼点、論旨の展開、明確な文意、平易な文章と、何を取っても若い評論家の中ではダントツ、現在、最も信用できる評論家であるといっても過言ではない。「……なのだが」といった括弧書きが多い(しかも字が小さい)のが気になりますが、そんなことは些細な問題なのであって、扱っているテーマが大きいだけに、もっとボリュームがあれば良かったのにと思います。元が雑誌連載なので仕方ないのですが、将来、文庫化されることがあれば、大幅に加筆して決定版としてもらいたいものです。

 有栖川有栖による帯(名文)にあるとおり「G.K.チェスタトンは、「犯人は芸術家だが、探偵は批評家にすぎない」と書いた。ならば、ミステリ評論家は探偵の役を担うことになる。作家という犯人がまき散らした謎を解くヒーローの役を。本書は、斯界きっての名探偵・千街晶之氏によるスリリングな謎解きの記録だ。全編が興奮のクライマックスである。」という仮面ライダー電王もビックリの近年稀に見る名著で、『黄色い部屋はいかに改装されたか?』『夜明けの睡魔 海外ミステリの新しい波』とあわせて、日本三大ミステリ評論の一冊として歴史に名を刻んだのであります。


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