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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

幽霊刑事

有栖川有栖  2000年

ラスト数ページに涙せよ

 ふと考えてみると、有栖川有栖は、綾辻行人と同じく新本格の旗手としてデビューしながら、代表作というものがないのだ。綾辻にとっての『霧越邸殺人事件』、法月綸太郎にとっての『頼子のために』のような「この一冊!」という作品がないのである。かといって寡作なのかといえば、そんなことはない。『スイス時計の謎』など、臨床犯罪学者火村英生と推理作家アリスが活躍するシリーズは結構な数が出ているし、他にも英都大学推理小説研究会部長、江神二郎と後輩のアリスが主人公のシリーズがあり、一般には、これを代表作とする人が多いようで、中でも『双頭の悪魔』を最高傑作に挙げる人が多い。この上ノンシリーズ物まで書いているのだから、ひとつくらい目立つ作品があっても良さそうなものなのに、これが無いわけである。みんな平均点。そんな感じなのだ。まぁ、どっちかっつーと堅実で、あんまりハッタリをかますタイプの作家ではないから、渋好みの人には良いかも知れないんですけどね。そんな有栖川が珍しく放ったハッタリものがこれ。

 俺は神崎達也。職業、刑事。美人のフィアンセもいるというのに、訳も分からず、選りによって上司に射殺されたので、死んでも死にきれず幽霊になってしまったのである。しかも、犯人の上司は、その後何者かによって密室状況で殺されてしまう。なぜ、自分は殺されなければならなかったのか。いったい事件の黒幕は誰なんだ?幽霊としてこの世に残った俺は、俺の声を唯一聞くことのできるイタコの血を引く後輩刑事とともに真相を探る!……そして俺はどうなってしまうんだ?

 軽い設定である。でも面白いのである。なにしろ殺された本人が喋っているのだから、無念の死を遂げた人の気持ちが充分すぎるほど分かるのである。かてて加えてロマンチックなのである。この作品は、多分ラストシーンの、あの趣向をやりたかったがために、それだけのために書かれたのではないかと思ったりするのだが、それがどんな趣向で、どんな効果を挙げているかは読んでからのお楽しみ。私は、結構グッときました。こういうのに弱いんです。