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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

容疑者Xの献身

東野圭吾  2005年

幾何の問題に見せかけて実は関数の問題

 『このミステリーがすごい!2006』『本格ミステリ・ベスト10 2006年版』『2005年「週刊文春」ミステリベスト10』の3つで首位を取るという史上初の快挙の上、第6回本格ミステリ大賞、第134回直木賞まで取っちゃった大メジャー作品を紹介するというのは、隠れた傑作をオススメするという本サイトの基本趣旨に反するのだが、無類に面白い本なのだから仕方がない。帝都大学理工学部物理学科助教授、探偵ガリレオこと湯川学が、摩訶不思議な事件を論理的に解決していく物理トリックマンセーシリーズ『探偵ガリレオ』『予知夢』に続くシリーズ初の長編。

 弁当屋で働きながら、娘の美里と二人でアパートで暮らしている元ホステスの花岡靖子。ある日、そのアパートへ靖子の元夫、富樫慎二が彼女の居所を突き止め、金の無心のために訪ねてきた。どこに引っ越しても疫病神のように現れ、暴力を振るう富樫を靖子と美里は大喧嘩の末、殺してしまう。今後の成り行きを想像し呆然とする母子に救いの手を差し伸べたのは、隣人の石神哲哉だった。天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、靖子に秘かな想いを寄せていたのだ。彼は、二人を救うため、自らの論理的思考によって二人に指示を出し、完全犯罪を企てる。そして、旧江戸川で死体が発見される。警察は遺体を富樫と断定、元妻である靖子が容疑者として捜査線上に上がり、花岡母子のアリバイを聞いて目をつけるが、捜査が進むにつれ、あと1歩といったところでことごとくズレが生ずることに気づく。困り果てた草薙刑事は、友人の天才物理学者、湯川に相談を持ちかける。すると、驚いたことに石神は湯川の大学時代の親友で、彼が生涯で唯一天才と認めた男だった。彼は当初この事件に傍観を通していたが、やがて石神が犯行に絡んでいることを知り、独自に解明に乗り出していく。湯川は果たして真実に迫れるか……?

 というわけで、冒頭にも書いたように史上初の三冠王(しかし『このミス』は文春のアンチテーゼとして始まったのに、ここんとこランキングの内容が似たり寄ったりってのは、もう存在価値がないってことじゃないの?)なのだが、ベストテンなんてものは所詮相対評価であって、この年の他の作品がつまらなすぎたんだという見方も出来る。また、直木賞は、作家のそれまでの実績を踏まえて与えられるので、厳密に言えば作品そのものに与えられるものではない。東野はこれまで『秘密』『白夜行』『片想い』『手紙』『幻夜』と5回もノミネートされていたし、それ以前の実績から考えれば、『秘密』の段階で受賞していたっておかしくはなかったのだ。いや、何が言いたいかというと、この作品は紛れもない傑作ではあるが、これをもって東野の頂点だなんて思わないでほしいということである。

 今までの扱いが不当に低かったのだ。やっとこさ世間が追いつき始めたということなのである。もっとも、ここんところ社会派っぽいのが続いていた東野が久々に推理小説らしい推理小説を書いたのだから、広範な読者を得られたのかも知れないが。まぁ、何を書いてもネタバレになっちゃいそうなので、とにかく読んで驚けとしか言いようがない。しかし、東野は何を書いても悲恋ものになっちゃうんだなぁ。なお、この作品に関しては、「この作品は本格ではない」「本格だけど大したものではない」などという大論争が展開されましたが、だからどうだってこともなく、不毛なままに終わりました。作品そのものではなくて、作品の本質を捉えずに評価し、右へ倣えの大絶賛になった(ように見える)批評家サイドを問題視しているのだと思うのだけれど、そんなにガチガチに考えている人なんているわけはないし、そもそもガチガチなものの需要なんて高くはないだろうしねぇ。それに、商業的成功だけが絶対の評価基準だとは言わないけれど、傍から見ていると、売れない作家の妬み嫉みにしか感じられないのね。そういうところが問題だといわれれば、そうなのかも知れないけれど。


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