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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

九つの殺人メルヘン

鯨統一郎  2001年

なんだか表にねずみの鳴き声が聞こえたぜ

 以前に私は「鯨統一郎の作品で読むに足るのは『邪馬台国はどこですか?』だけ」と書いた。その認識については、現在も大して変わっていない。なにしろ、この人は、その後の作品でも「それまで定説とされてきた解釈を思わぬ方向へひっくり返す」というパターンの作品しか書いておらず、しかも、どれもこれもが『邪馬台国〜』より小粒だったからだ。いや、小粒というのは当たらんか。そう、「ひっくり返すに足るほどの定説がない(あるいは知られていない)ものをネタにしていた」と言った方が正確かもしれない。正統な続編である『新・世界の七不思議』ではアトランティス大陸、ストーンヘンジ、ピラミッド、秦の始皇帝、ノアの方舟、ナスカ地上絵、モアイ像とワールドワイドなネタだけれど、そもそもの解釈すらよく知らないものばかりである。だから、ひっくり返されたって「へぇ」としか思わんのである。しかし、ここに新たに代表作と呼べるものが誕生した。それが本書である。

 渋谷区にある日本酒バー「森へ抜ける道」を舞台に、店の常連の工藤と山内、マスターの厄年トリオと、日本酒好きの女子大生、桜川東子が推理する、九つの難事件。グリム童話の新解釈になぞらえて、解き明かされる事件の真相とは?相変わらず「それまで定説とされてきた解釈を思わぬ方向へひっくり返す」パターンだが、それって良く考えると本格ミステリーの本質なのであって、同じパターンだからといって非難されるものではない。今回のネタは皆様ようくご存知のグリム童話である。まぁ、ハッキリ言って一時期流行った『本当は恐ろしいグリム童話』といった類のパクリである。しかし、パクリであるからといって非難されるものでもない。それを安楽椅子探偵もの仕立てにして見事に成功しているのだから大したものである。しかも、本書は連作ミステリーとしては『邪馬台国はどこですか?』を超える仕掛けを導入しているのだ。立派である。成長したのである、鯨は。鯨は、ってことはねぇか。

 鯨自身も気に入っていたのだろう、『邪馬台国〜』『九つの〜』に登場するヒロインの豪華共演『すべての美人は名探偵である』を書いている。これは、まぁ『土曜ワイド劇場』のスペシャル企画「牟田刑事官vs終着駅の牛尾刑事、そして事件記者・冴子」みたいなもので、主役共演という趣向を楽しむべきであって中身はあんまり面白くない。ここは非難されてもいいかな。


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