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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

時の森殺人事件

吉村達也  1992年

謎の大迷宮は驚愕の大破局に向けて加速する

 吉村達也。推理作家。通り名を「早書き達っちゃん」。残念ながら2012年に亡くなってしまった(公式サイトで「長らくごぶさたしておりました。突然ですが、私はこの度、死んでしまいました。」と人を食った遺書を発表した)けれど、90年代前半あたりは、ものすごいペースで作品を送り出していたものです。

 しかも、それが「湯煙なんとか」とか「なんとか列車殺人事件」とかいう、どれがどれだかサッパリ分からない量産型ザクみたいなものじゃなく、どっちから読んでもOKという『金閣寺の惨劇』『銀閣寺の惨劇』とか、事件を追う探偵が自らのアイデンティティにも迫ることになる『花咲村の惨劇』『鳥啼村の惨劇』『風吹村の惨劇』『月影村の惨劇』『最後の惨劇』5部作とか、最終章の部分をタイトルと同じ色にしちゃったグルグル回る3部作『薔薇色の悲劇』『檸檬色の悲劇』『瑠璃色の悲劇』などなど、様々な趣向を凝らしに凝らしまくって我々を愉しませてくれちゃうのである。もっともっと評価されていい作家だと思うのだが、いかがでしょうか。

 で、この『時の森殺人事件』は、あの『ツインピークス』(懐かしい!)に触発されて発表されたミステリで、間違いなく吉村の最高傑作。標高1300メートルの森と湖に囲まれた不思議な町「時の杜」。外部の人間を寄せつけない奇妙な異次元空間で美少女殺人事件が発生。現場の森では、古い柱時計が時を刻み続けていた。それが過去に前例のない動機による連続殺人の序曲とも知らず、里見捜査官が真相解明に乗り出した。が、時の杜では駐在所の巡査までが敵だった!……という迷宮のような世界での怪事件。

 全6巻、2000枚強のボリューム、50人近い主要登場人物(芸能人に似せた似顔絵付リストあり)、そして前代未聞の殺人動機はミステリ史上最大という壮大な作品です。今では珍しくないかもしれませんが、90年代の初めに、こんな内容で、こんな長さで勝負した吉村達也は偉い!なにしろ6巻という長さですから、作品内で解かれなければならない謎も実に多い。しかし御安心めされぃ、なんと親切なことに最終巻冒頭で「残された50の謎」として整理してくれてます。それに『ツイン・ピークス』と違って、きちんと解決されますから、その点は御安心を。できれば6巻まとめて、夜中に一気読みしていただきたい。この迷宮世界に浸りながら、早書き達っちゃんの仕掛けた大技を満喫しましょう。


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