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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

そして殺人者は野に放たれる

日垣隆  2004年

この世には死ぬべき屑が確かに存在するのだ

 先日、『悪党~重犯罪捜査班』(テレビ朝日系)という刑事ドラマを見ていたら、鬼畜のような犯罪者をぶん殴った刑事(こんな役ならお手の物、の内山理名)が「人権ってのは人間のためにあるものよ!あんたは人間じゃない!」と叫んでいました。2011年に、こんな台詞を吐かせるなんて、実に素晴らしい番組です。最近のドラマ作家達(脚本を書いたのは深沢正樹)も、まだまだ捨てたもんじゃないと感心しました。「人権」という単語すら口にするのに相当の根性がいるというのに、そんなもん持ってない奴がいるということを(怒りに任せて口走ったという設定とはいえ)ハッキリとテレビで言っちゃうなんて、なかなか勇気のいることなのである(テレビ朝日の番組だから、余計にビックリしたんだけど)。

 もっとも、今を去ること40年前には、「日本ほどキチガイが野放しになっている国はないんだ。政府も何とか考えてもらわないとね」という思いっきり真実を突いた台詞を、極めて冷静に言わせちゃった傑作特撮ドラマ『怪奇大作戦』(1968年)というものがありましたが、そのエピソード第24話「狂鬼人間」は、現在、欠番になっています。どんな話かというと、殺人事件の犯人が、精神鑑定の結果、重度の精神異常と判断され、刑法第39条第1項「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」の規定により起訴されないという事態が多発。更に、その犯人達は異常な早さで精神病院を退院していた。殺人犯達が何らかの方法で一時的に精神異常状態になっていたのではと考えた捜査陣は、事件の背後に「狂わせ屋」がいることを突き止める。彼女は、夫と子を殺人歴のある精神異常者に殺害されたが、犯人は今回も無罪となったという過去を持ち、優秀な脳科学者だった夫の開発した「脳波変調機」を利用して、心神喪失者を野放しにする社会に復讐しようとしていた……というもの。重いですねぇ。脚本を書いたのは山浦弘靖。ちなみに欠番になった理由は明らかにされていません。ライターが調べようとしたら、例によって円谷プロが圧力をかけたらしいです。

 2011年の『悪党~重犯罪捜査班』で、あんな台詞が許されたのは、言われている犯人が「鬼畜のようだけど普通の人」だったからかも知れません。もし、犯人が精神異常者(なんて言葉も使えず、心神耗弱状態とかなんとか言い換えるんだろうが)なんて設定だったら……おそらく絶対に放送なんかできなかったでしょう。『怪奇大作戦』の放送から数十年の時を経て、我が国はここまで「人権」を大切にする国になったのです。しかし、それは、社会が、完全に正しく成熟した結果だといえるのでしょうか。この本は、そんな疑問に一つの答えを示してくれています。

 無罪判決。――その時、殺人者はニヤリと笑った!……「心神喪失」の名の下で、あの殺人者が戻ってくる!……と書くと、ノワールか何かかと思われそうですが、これは小説ではありません。「テレビがうるさい」と二世帯五人を惨殺した学生、「歩き方が悪い」と四人を死傷させた男、お受験苦から我が子三人を絞殺した母親が、罪に問われない異常な日本。「人権」を唱えて精神障害者の犯罪報道をタブー視するメディア、その傍らで放置される障害者、そして、空虚な判例を重ねる司法の思考停止……心神喪失の名の下で被害者や遺族は不当な扱いを受け、人殺しどもはぬくぬくと娑婆を謳歌している!という恐怖の現実に真正面から切り込んだ渾身のレポートなのです。これは是非、一人でも多くの人に読んでいただきたい。正直、読むのはかなり辛いです。私も読み通すのに随分苦労しました。なにしろ内容が重過ぎて。でも、頑張って読んで、いろいろ考えていただきたい。是非是非御一読を。なお、公正を期すために申し上げておきますが、私は死刑存続論者で(更に言えば、死刑適用範囲拡大論者でもある)、少年法撤廃論者で、刑法39条(あんな非常識な法律あるか)削除論者です。


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