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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

夕陽はかえる

霞流一  2007年

任侠推理か、マカロニ本格、それともパズル・ノワール!

 どうも「バカミス」という奴が胡散臭くてならんのである。初めてこの言葉を見たのは、当初の毒気が抜かれて、そろそろ飽きられてきた頃の『このミステリーがすごい!』だったと思うのだけれど(違ったかしら?)、定義がよく分からなくて、どうもいまいちピンとこない。多分、「ここまでやるか!」と思われるほどテッテー的に何かにこだわって作られていて、だけど、「凝る」ということでは天下一品の泡坂妻夫の『喜劇悲奇劇』とか『しあわせの書』とか『生者と死者』みたいに「よく出来ているなぁ」なんて感嘆を伴うものではなく、関西でいうところの「アホやなぁ」という呆れながら苦笑させるニュアンスを感じさせるミステリ(とかトリック)ということなのだろう、と勝手に思っている。誰が言ったか忘れたが「世の中なんでも、極端なものこそ面白い」って言葉がありますから、この「極端」というのが、バカミスの重要なキーワードのひとつだと思うんです、多分。だから、「バカミス」は、決して作品を貶す言葉ではないと言われれば、確かにそうなのかも知れないんだけれど、なんとなく私には「こう言っておけば批判されないだろう」っていう逃げ口上にしか聞こえないんだな。だってバカミスって呼ばれる作品って、ただ呆れるだけで苦笑すらできないものばかりで、面白いと思ったものって記憶にないんだもの。お笑いの要素を入れればいいってもんじゃぁなし(しかも、大抵笑えない)、大体、北村薫の『ニッポン硬貨の謎』がバカミス大賞を取っているっていうじゃないか。どう読んでも「バカ」な要素はないと思うが、賞をやっている方も、実際よく分かってないんじゃないか?

 で、本書は、いわゆる「バカミスの帝王」霞流一の代表作ということらしい。先に言っておくけれど、これまで何冊か読んだこの人の本で、笑えたためしは一度もない。バカだと思ったこともないし、特段面白いと思ったこともない。だから、「バカミスの帝王」だと思ったこともない。しかし、これは違うぞ。霞流一やりました!の快作です。

 プロの暗殺組織「影ジェンシー」で実務を手掛ける「影ジェント」の一人、「青い雷光のアオガエル」と呼ばれ恐れられていた宮大工が不可能状況で殺された。明らかに同業者の手口。同僚の影ジェント「ジョーカーの笑うオペ」は、遺族の依頼で真相を追う。だが、「青い雷光のアオガエル」がこなすはずだった「影業」が宙に浮き、残された影ジェントたちは影ジェンシーの提供する影業を「入殺」することになり、彼らの怪奇を尽くした決闘の応酬は「東京戦争」と呼ばれるほどに発展していく。果たして「討ち合わせ」の行方は?そして、殺し屋による殺し屋殺しと推理の行方は?

 いやぁ、面白かったっすよ。「山田風太郎の忍法帖モノを髣髴させる」なんて評を読んだ覚えがあるけれど、私が真っ先に思い浮かべたのは、都筑道夫の『なめくじに聞いてみろ』でした。「影業」とか「入殺」(寅の会か)とか「討ち合わせ」なんていう言葉の作り方も非常に都筑的。「処刑台のエコロ爺」「とむらいの酵母菌」なんて二つ名もセンスバツグン。バツグンったって駄洒落のレベルですが、こういうのを「けけけ」と笑いながら楽しめるってのはいいですな。それに、ただバカバカしいだけじゃなくて、作品からそこはかと漂う哀愁ってものがグッときます。これぞ男の浪漫です。作者は「SIN(罪、違反)本格」「背徳のミステリ」なんて言っていますけれども、そんな難しいこと考えずに、純然たるエンタテインメント魂炸裂の痛快娯楽アクション小説としてお楽しみいただきたい。


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