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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

文學ト云フ事

[出演]井出薫  1994年

この番組は、文學を読むための壮大な予告編である

 日本の古典文学のさわりの部分だけを映画の予告編みたいに紹介して、読書に誘おうという番組です。面白いところは全部予告編に入っていて、本編はカスというような最近の映画とはわけが違います。番組ラストの次回予告で「来週は『○○』を紹介するので、それまでは本を読むな」という高飛車な態度を見せるだけのことはあって、映像も音楽も異様なまでに美しい。これを見たら、本を読まずにいられなくなる、という効果を狙った番組なんですけれど、逆に、本なんか、かったるくて読めなくなるのではないかと心配してしまいます。それほどまでに素晴らしい。フジテレビの深夜番組のくせに(←失礼)、やたらと知的で、文部省推薦って書いてあっても信用するぞ。とにかく、これは歴史に残る好企画。是非、復活してほしいものです。

  取り上げられた作品は、「友情」(武者小路実篤)、「三四郎」(夏目漱石)、「みずうみ」(川端康成)、「人間失格」(太宰治)、「雁」(森鴎外)、「蓼喰う虫」(谷崎潤一郎)、「オリンポスの果実」(田中英光)、「蒲団」(田山花袋)、「箱男」(安部公房)、「野菊の墓」(伊藤左千夫)、「斜陽」(太宰治)、「美徳のよろめき」(三島由紀夫)、「夢十夜」(夏目漱石)、「老妓抄」(岡本かの子)、「朝雲」(川端康成)、「青年」(森鴎外)、「或る少女の死まで」(室生犀星)、「浮雲」(二葉亭四迷)と、新潮か岩波の手先かと見紛う実に渋いセレクト。いまどきの若い人で、これらを読んでいる人って、どのくらいいるんでしょうねぇ。ひょっとして田山花袋とか室生犀星なんて、作者の名前からして読めないのではないか。

 「オリンポスの果実」の予告編に、エルトン・ジョンの「YOUR SONG」が使われていたのが印象に残っています。ちなみに番組のエンディングは、原田知世の「T'en va pas」。番組のナビゲーションを務める「文学の案内人」には、森本レオと緒川たまきがやたら出ていた印象があります。森本レオ……この生涯一書生という感じが、文系のかっこ悪さと覚悟を表していて見事なキャスティングです。なんか、いつでもドテラ着てコタツに入ってインスタントラーメン食って理屈っぽいことばっかり言ってそうでしょ。窓の外は眺めるだけで自ら出て行くところではない、みたいな信念を感じさせますね。そして、緒川たまき。あの若いくせに古臭くて、およそ「溌剌」などという言葉と縁がなく、文学少女の成れの果てというか、幻想の世界に生きているというようなイメージが、いかにも日本の古典文学を紹介するのにドンピシャ。彼女のベストワークと言っていいでしょう。最近見ませんけれど何をしているんでしょうねぇ。それと井出薫!セーラー服にお下げ髪で文庫本を読んでいる井出薫!これだ!このシチュエーションだよ!これこそ全文系男子の桃源郷を現出せしめた御姿!この人なくして、この番組はありえない!もぉたまらんね!あぁもぉ!


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