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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

コレクター THE COLLECTOR

[監督]ウィリアム・ワイラー [出演]テレンス・スタンプ、サマンサ・エッガー  1965年

同じく蝶コレクターだった岸田森が吹き替えていた

 警察庁広域重要指定117号事件、通称「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」。1988年から1989年にかけて東京都北西部及び埼玉県南西部で発生した、幼女4人を対象とした誘拐・殺害事件。この事件は、4歳から7歳という低い年齢の女児が被害者となり、犯行声明を新聞社に送り付けたり、野焼きされた被害者の遺骨を遺族に送りつけたりするなどの、極めて異常な行動を犯人が取ったことから、欧米を中心に多発する児童への性的暴行を目的とした誘拐・殺害事件などとの比較も行われ、戦後日本犯罪史上初めてプロファイリングの導入が検討された(しかし、いまだに犯行動機は解明されていない)。犯人は、宮崎勤。1962年生まれ、事件発生時26歳。宮崎が自室に所有していた「5、763本もの実写ドラマなどを撮影したビデオテープ」を家宅捜索により押収した警察側は、これらを分析するために74名の捜査員と50台のビデオデッキを動員、調査に2週間を費やした。このことからオタク・バッシングが異常加熱したことも記憶に新しい。ところで、宮崎が逮捕され、事件の詳細が明らかになるにつれ、マスコミは、彼を「現代のテレンス・スタンプ」と呼んだ。

 銀行に勤めるテレンス・スタンプは内気なのか、孤独癖が強いのか熱中することは蝶を集めることくらいだった。その蝶をクロロフォルムで殺すとき、忘我の境地で、うっ!どぴゅっ!みたいな男だった。あるとき、グリーンジャンボ宝くじで大金を握った彼は、郊外に地下室のある大きな古い離れの一軒家を買い調度品を揃えた。そして美術学校に通う魅力的なサマンサ・エッガーを誘拐し、地下室に監禁する。スタンプは、監禁したサマンサに何をするわけでもなく、ただ望みを叶えようと努力する。欲しがるものは何でも与えるが、決して監視の目はゆるめないスタンプ。絶えず逃げる努力を止めないサマンサ。奇妙な生活の行き着く果ては……。

 あの頃のバッシングはどこへやら、今やホラー全盛であるが、あんなものは単なるこけおどしに過ぎない。せいぜい、隣の女の子に抱きついてもらうためのものである。本作は、突然後ろからギャーッとか化物が出てきてギャーッとか血しぶきあげまくってギャーッとか、そういうものではない。とても静かな映画である。何か音が鳴っていた記憶がないほどである。こういうものが本当に怖い。蝶の収集にしか興味のなかった男が、一人の女性に恋をする。彼の愛し方は蝶にも人間にも同じように……。ああ怖い。じわじわ怖い。淡々と怖い。人間として共有できる感情なんて、単なる思い込みに過ぎないのだ、ということをさらけ出してしまったところが怖い。でも本当に怖いのは何の救いもないラストシーンで、リアルタイムで見た人たちは衝撃を受けたと思う。今、自分の隣にいる人が、こういう人かもしれないのだ。いや、自分自身が、こういう人かもしれないのだ。そんな中で、我々は今日を生きていかなければならないのである。だからこそ、23年も経って「現代のテレンス・スタンプ」という言葉が生きていたのだ。



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