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ダイキチ☆デラックス〜音楽,本,映画のオススメ・レビュー

生きる

[監督]黒澤明 [出演]志村喬、小田切みき 1952年

いのち短し、恋せよ乙女

 世界のクロサワである。クロサワ作品は何本か見たが、これが一番良かった。て言うか、面白いと思えた作品って、これと『用心棒』くらいです。封切当時は衝撃的だったのかもしれませんが、『七人の侍』は長すぎるし、『羅生門』『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』『天国と地獄』も、そんなに騒ぐほどの映画とも思えないんですがねぇ。もっとも、一方の巨匠、小津安二郎よりは見やすいですけれど。小津の最高傑作と言われる『東京物語』なんて退屈で退屈で、最後まで見通せませんでした。拷問でした。というわけで、昔の日本映画、それもいわゆる「名画」と呼ばれるものに対しては、あんまり媚びへつらうことをしない私ではありますが、この作品には感動しましたよ。

 市役所の市民課長、元ゴジラ学者の志村喬は、30年無欠勤という恐ろしく勤勉な経歴を持った男だったが、毎日書類の山を相手に黙々と判子を押すだけの無気力な日々を送っていた。市役所内部は縄張り意識で縛られ、住民の陳情は市役所や市議会の中でたらいまわしにされるなど、形式主義がはびこっていた。ある日、自分が胃癌で余命いくばくもないと知った志村は、人生の意味を見失い、市役所を初めて無断欠勤し、貯金をおろして夜の街をさまよう。しかし、生来の真面目人間がパチンコやダンスホール、ストリップなどを巡ったところで虚しさが残るだけで、事情を知らない家族に白い目で見られてしまう。翌日、偶然、退屈な市役所を辞めて、クリエイティブな玩具工場に転職していようとしていた部下に出会った志村は、「自分にも、まだできることがある」と職場復帰、頭の固い役所の上司らを相手に粘り強く働きかけ、脅迫にも屈せず、住民の要望だった公園の完成に向けて動き出す。

 私が気になるのは、やはり主人公が公務員だということ。残りわずかな命を精一杯燃やす姿、それを際立たせる背景として役所の窓口たらいまわしとかルーティンワークとかへの批判が極めて効果的に使われているわけです。同じ公務員の私としては、こういうステロタイプな描き方には反発もするし、役所を叩いておけばそれで良しという左翼的でマスコミ的な態度、そして何も考えていない底の浅さにはイヤ〜な感じも禁じ得ない。実際問題、あんなに楽な仕事じゃないわけですよ、公務員って。ラストのブランコのシーンだって、何故お前ひとりの手柄みたいな顔をして満足げに歌っているのだとも思いますしね。まぁ、それはいくら言ったところで分かってもらえないものと諦めるとして、ドラマとしても特段奥深さがあるわけでもなく、ありがちと言えばありがちな単純な話ですが、通夜での回想という形式が見事な効果を上げています。情けないことに感動を呼ぶ作品であることは間違いない。くそっ。