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ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

東京オリンピック

[監督]市川崑  1965年

世界は一つ東京オリンピック

 東京オリンピックは、1964年(昭和39年)に日本の東京で開かれた第18回夏季オリンピック。1940年大会の開催権を返上した日本及びアジア地域で初めて開催されたオリンピックで、有色人種国家における史上初のオリンピックでもある。また、1940年代から1960年代にかけてヨーロッパ諸国やアメリカによる植民地支配を破り、次々と独立を成し遂げたアジアやアフリカ諸国による初出場が相次ぎ、過去最高の参加国・地域数 93(参加人数 5133人)を記録した。ちなみにハッピーマンデー制度のせいで最近忘れられがちだが、国民の祝日「体育の日」が10月10日なのは、東京オリンピック開会式の日にちなんでいるのだよ。

 本作は市川崑総監修による長編記録映画である。競技者の心情表現を重視した演出や、シネスコサイズでの撮影、超望遠レンズをはじめとする複数のカメラを使った多角的な描写、更にはドキュメンタリーなのに脚本がある(さすがに久里子亭名義ではない市川崑、市川夫人である和田夏十のほか、仲代達矢版『野獣死すべし』等の脚本を書いた白坂依志夫、『鉄腕アトム』主題歌作詞でおなじみの詩人、谷川俊太郎)など従来の「記録映画」とは全く性質の異なる極めて芸術性の高い作品に仕上がっている。

 なにしろ、オリンピック会場建設のためのビル解体工事の場面から始まるのである。クレーンの先にぶら下げられた鉄球がビルをぶち壊す勇姿は、まるで連合赤軍あさま山荘事件における突入作戦を思わせる、って最近の若い人は知りませんかそうですか。続いて聖火リレー。オリンポスでの採火式、各国での走者のカットに続いては、延々と聖火を追う空撮が入り、我が国の美しい山並みを見ることができる。このあたり、市川監督作品でよく見られる「風に揺れる山林」描写と同じで、日本のオリンピックであることを強調しているようだ。富士山をバックに聖火ランナーが走るという、銭湯の壁絵みたいな思い切りベタなシーンを別撮りするなど、その意志は徹底されている。

 さて、いよいよ開会式だが、観客とか警備員とかの様々な表情が短いカットでパッパッと挿入され、いかにも市川作品という感じで微笑ましい。しかし、真骨頂は競技場面で、突如モノクロ画像のスローモーションになる砲丸投げ、ストロボアクションが駆使される体操、アニメが挿入されるウエイトリフティングなど、技巧の限りを尽くして見る者を飽きさせない。また、競技者だけではなく、グランドの雨をスポンジで吸い取る係員達やプレスセンターの記者達も丁寧に撮られている。こういう演出のせいでオリンピック担当大臣の河野一郎(国賊河野洋平の親父)が「記録性に欠ける」と批判したのだろうが、競技記録そのものだったら、とてもじゃないが170分もの長丁場(『七人の侍』みたいに、途中休憩(インターミッション)が入る)を持たせることなどできなかっただろう。当時、「記録か芸術か」なんて論争があったらしいがバカバカしい話だ。そもそも、単なる記録なら映画という形をとる必要はないと思うし、自転車競技のシーンに顕著なように、まさに本作はオリンピックという一大イベントを通じて、当時の日本をこれ以上ないほどクッキリと記録した映画である。私はスポーツになど全然関心はないけれど、平和への祈りに満ちた閉会式のシーンなど、日本でしか、あの時代でしか撮りえなかった名場面だと思う。とにかく日本人なら一度は絶対に見ておくべき映画です。


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