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ダイキチデラックス

孤島の鬼

江戸川乱歩  1930年


毛髪の根元にある色素形成細胞の活動がストレスで弱まると白髪になる

 江戸川乱歩といえば、我が国を代表する推理作家であり、その作風から、土蔵の中で蝋燭の灯りをたよりに執筆しているとかいう伝説もあった人ですが、これこそ、そんな伝説にふさわしい大傑作。明智小五郎も怪人二十面相も出てきませんが、間違いなく乱歩の代表作と言っていいでしょう。

 主人公の蓑浦金之助の恋人、初代は、幼い頃に親に捨てられて身元が分からない。結婚を約束した二人だったが、ある日、密室状態の自宅で初代が殺される。蓑浦は遺灰を食べながら復讐を誓い、探偵業を営む友人、深山木幸吉を訪ねるが、役立たずの彼は、白昼の混雑した海水浴場という不可能状況で殺されてしまう。蓑浦は、自分より家柄も収入も学歴も格段に上で、おまけに快活で頭のよい美男子だが、ホモ野郎なのが玉に瑕、蓑浦のことを考えると夜も眠れず○○している友人(何故そんな奴と友人なのかはよく分からない)諸戸道雄とともに、事件の真相を追って南紀の孤島へ向かう。そして、彼の黒髪を一夜にして真っ白にしてしまったほどの、おぞましく不幸に呪われた、恐ろしい出来事に巻き込まれてゆく……。

 「二銭銅貨」でデビューしてから、真面目に本格短編を書いていた乱歩ですが、あまりに受けないのと、おそらくは資質が合わなかったことから、開き直って『蜘蛛男』『魔術師』などの通俗長編を書くようになり、ときどき嫌気がさしたりしていたようですが、エロ・グロ・ナンセンスの代名詞的に人気を不動のものとします。この『孤島の鬼』は、ちょうど、その中間の時期に書かれただけあって、乱歩の二つの作風(端正で理知的な本格推理と、波瀾万丈、奇想天外、キチガイ寸前な物語)両方が楽しめる、一粒で二度美味しい好長編です。出てくるネタも人体いじくりまくりだのホモだの好き勝手に改造した島だの、やっぱり乱歩の真骨頂は通俗長編なのだなというのがハッキリ分かる変態幼児性爆発で、ダンスを必修科目にする狂った文部科学省でも推薦図書にすることなど未来永劫ありえません。我が国では封印され、外国でDVD化されたという国辱的事態を引き起こしたカルト映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』の原作ともなった名作中の名作(ただし作品中では原作は『パノラマ島綺譚』とクレジットされています)。とにかく一度手に取っていただきたいのですが、独特の雰囲気を味わうためには、初出時の挿絵を復刻している創元推理文庫版を、親に隠れてこっそり読むのが最適です。

 それと、もう一つ特筆すべきことがあって、それは文章の美しさ、テンポの良さ。横溝正史もそうですが、とにかく使われている言葉の美しいこと。古めかしいと感じられるかもしれませんが、素直に日本語ってキレイな言葉なんやなぁと思えること請け合い。そして、この絶妙のテンポで語られるストーリーに浸っていると、「物語り」という言葉の意味がよく分かります。


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