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ダイキチデラックス

東西ミステリーベスト100

[編]文藝春秋  1986年


読書家必携のバイブル

 1985年に『週刊文春』が実施した、史上最大の推理小説のオールタイムベスト選定企画。推理作家や推理小説の愛好者ら508名のアンケート回答によってベスト100に選ばれた古今東西の名作ミステリ200篇について、各作品のあらすじと解説・評価を新たに書き加えた画期的なミステリ入門書。これを読めば今日からあなたは押しも押されもしないミステリ通だ!

 というわけで、推理小説ファンの人なら必ず持ってなきゃならないガイド本。皆さん、持っていますよね?持ってない人、文庫本で安いんですから、すぐに買いに走りなさい。ただし、古い本なので、評価としても古いかも知れません。試しにベスト10を拾ってみると、以下の表のようになります。参考までに、江戸川乱歩が『幻影城』(1951年)で選んだ「古典ベスト・テン」を並べましたが、選出時点での翻訳状況の差を考慮に入れても、この驚くべき一致率は、作品の質そのものもさることながら、日本人のミステリ評価に対する乱歩の呪縛の強さが感じられる結果になっています。ついでに並べた1991年の「ミステリマガジン」での読者アンケート(結果は『ミステリ・ハンドブック』に掲載)になると、古典中の古典であるホームズは別格として、ヴァン・ダインはおろかクリスティーまで脱落(なのに残っている『Yの悲劇』!)と、さすがに顔ぶれも変化し始めますが、それでも5作がかぶっていて、ミステリは早い者勝ちというのが真理だと改めて理解できますね。

   文春のベスト10  乱歩のベスト10  ハヤカワのベスト10
  1 『Yの悲劇』
 エラリー・クイーン
     (1933)
『赤毛のレドメイン家』
 イーデン・フィルポッツ
     (1922)
『幻の女』
 ウイリアム・アイリッシュ
     (1942)
  2 『幻の女』
 ウイリアム・アイリッシュ
     (1942)
『黄色い部屋の謎』
 ガストン・ルルー
     (1907)
『深夜プラス1』
 ギャビン・ライアル
     (1965)
  3 『長いお別れ』
 レイモンド・チャンドラー
     (1954)
『僧正殺人事件』
 ヴァン・ダイン
     (1929)
『シャーロック・ホームズの冒険』
 コナン・ドイル
     (1892)
  4 『そして誰もいなくなった』
 アガサ・クリスティー
     (1939)
『Yの悲劇』
 エラリー・クイーン
     (1933)
『長いお別れ』
 レイモンド・チャンドラー
     (1954)
  5 『鷲は舞い降りた』
 ジャック・ヒギンズ
     (1975)
『トレント最後の事件』
 E・C・ベントリー
     (1913)
『あなたに似た人』
 ロアルド・ダール
     (1953)
  6 『深夜プラス1』
 ギャビン・ライアル
     (1965)
『アクロイド殺し』
 アガサ・クリスティー
     (1926)
『偽のデュー警部』
 ピーター・ラヴゼイ
     (1982)
  7 『樽』
 F・W・クロフツ
     (1920)
『帽子収集狂事件』
 ディクスン・カー
     (1933)
『Yの悲劇』
 エラリー・クイーン
     (1933)
  8 『アクロイド殺し』
 アガサ・クリスティー
     (1926)
『赤い館の秘密』
 A・A・ミルン
     (1921)
『死の接吻』
 アイラ・レヴィン
     (1953)
  9 『僧正殺人事件』
 ヴァン・ダイン
     (1929)
『樽』
 F・W・クロフツ
     (1920)
『夢果つる街』
 トレヴェニアン
     (1976)
 10 『シャーロック・ホームズの冒険』
 コナン・ドイル
     (1892)
『ナイン・テイラーズ』
 ドロシー・セイヤーズ
     (1934)
『キドリントンから消えた娘』
 コリン・デクスター
     (1976)

 一方、国内編は以下のとおり。いわゆる本格冬の時代(一般に『点と線』の1957年から『十角館の殺人』の1987年までと言われる)ど真ん中に行われたアンケートにもかかわらず、いわゆる三大奇書等、古色蒼然たる作品が並んでいます。国内作品に関しては、この後、1975年の赤川次郎や雑誌『幻影城』出身作家から1994年の京極夏彦の登場までの、本格派興隆期20年間の本格作品に絞って探偵小説研究会が選出した『本格ミステリ・ベスト100』というものがある程度で、大掛かりなアンケートは行われていないので、新本格ブームを経た現在、改めて国内オールタイムベストを見てみたい気もします。

   文春のベスト10  探偵小説研究会のベスト10(1957~1994)
  1 『獄門島』横溝正史(1947) 『生ける屍の死』山口雅也(1989)
  2 『虚無への供物』中井英夫(1964) 『姑獲鳥の夏』京極夏彦(1994)
  3 『点と線』松本清張(1957) 『占星術殺人事件』島田荘司(1981)
  4 『不連続殺人事件』坂口安吾(1947) 『サマー・アポカリプス』笠井潔(1981)
  5 『黒死館殺人事件』小栗虫太郎(1934) 『匣の中の失楽』竹本健治(1978)
  6 『ドグラ・マグラ』夢野久作(1935) 『亜愛一郎の狼狽』泡坂妻夫(1978)
  7 『本陣殺人事件』横溝正史(1946) 『哲学者の密室』笠井潔(1992)
  8 『黒いトランク』鮎川哲也(1956) 『霧越邸殺人事件』綾辻行人(1990)
  9 『戻り川心中』連城三紀彦(1980) 『空飛ぶ馬』北村薫(1989)
 10 『刺青殺人事件』高木彬光(1948) 『戻り川心中』連城三紀彦(1980)

 古くても面白いものは面白いのです。最近の若い人は、怒涛のような新刊の数に押されて、古典を読んでいないみたいなので、特に若い人にお薦めします。推理小説というのは、古い作品を読んでいれば読んでいるほど、現代の作品を楽しむことができるという特性を持っているのです。例えば京極夏彦の『魍魎の匣』を読むときに江戸川乱歩の『押絵と旅する男』を知っていると知っていないのとでは楽しみ方に差がついちゃうのです。ちなみに、ここで各作品の一口コメントを書いている人の中にデビュー前の北村薫がいるらしい。どの文章でしょうね。


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