ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

異邦の騎士

島田荘司  1988年


ノミが一匹もいなくなったら、俺は犬だってことを忘れるだろうよ

 公園のベンチで目覚めた「俺」は、記憶喪失だった! 男は、途方に暮れて街を彷徨ううちに知り合った良子とともに暮らすようになる。良き理解者である良子や、不思議な男・御手洗の協力を得ながら過去を探るが、記憶が浮かび上がるにつれ、その断片的事実に戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺した男なのか?そして、いま若い女との幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手……。記憶喪失の男を翻弄する怪事の背景は?蟻地獄にも似た罠から男は逃れることができるのか。

 「俺はな、うっとうしいやっかい事に、頭のてっぺんから爪先までまとわりつかれた運のない男なんだよ。いってみれば、ノミに体中たかられた犬みたいなもんだ。いつでも後足で体を掻いていなきゃならない。だけどな、ノミが一匹もいなくなったら、俺は犬だってことを忘れるだろうよ」……島田荘司作品の中でも屈指の名セリフが登場する傑作(誰が、どんな場面で言うのかは、読んでからのお楽しみ)。よくある記憶喪失ものか、と手を出さずにいたら絶対に後悔します。もちろん記憶喪失もの特有のサスペンスも味わえますが、はかなくて美しい情景連発のストーリー展開に落涙必至です。特にラストに泣かない人は人間ではないと断言してはばからない私ですが、我が弟子、えりちゃんの分析によると、これは非常に男受けが良い作品であるらしい。女性にはあんまり受けないんですと。タイトルの元になったリターン・トゥ・フォーエヴァーの『浪漫の騎士』とかウェス・モンゴメリーの『インクレディブル・ジャズ・ギター』とかいったジャズのアルバムは、これで教わったのだが(←それは関係ない)。まぁ、確かに感傷浸りまくりの作品だし、ロマンティシズム丸出し、休みの日に推理小説を読んでいるような暗いモテナイ君にしてみれば「あぁ、こんな女性と出会いたい」「こんな恋がしてみたい」ってな感じで大受けしたのかも知れません。悪かったな、モテナイ君で。

 よく訊かれるんです、この歳になると。「君は結婚せぇへんのか」って。結婚はなぁ、一人でできるもんと違うやろがい!と思いながら「はぁ、まぁ、相手がいないですから」なんて答えると「なんでや、女嫌いか」なんて訊きやがる。そんなわけないやろ、俺がホモに見えるのか、ボケ!とムカつきながらも「いやぁ、モテないですから」と、このあたりで話し切り上げんかい、てな目つきで見てやっても気付かず「なんでモテへんのや」と突っ込んでくる。話の切り上げ時も分からんのか、このボケ、切れが悪いのは小便だけにしとかんかい!と怒り心頭に発しつつも「それが分からんからモテないんですよ」と粋な答えをする私。すると後はオヤジ特有の「あかんなぁ、俺の若い頃は(どうせ嘘八百の武勇伝が続く)、ガハハハハ」てな馬鹿笑いで終わりだ。殺すぞ!


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