ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

火刑都市

島田荘司  1984年


植木等主演のドラマは消したい過去(見てないけど)

 いきなり大暴言をかますけれど、結局、島田荘司はもぉ終わった人なのだ。今でも御手洗潔と石岡和己が出てくりゃOKのミーハーファンはいるだろうけれど、『占星術殺人事件』の発表に随喜の涙を流して喜んだミステリファンは、大作路線に舵を切った『暗闇坂の人喰いの木』あたりから違和感を抱き始めたのではないだろうか。初期の島田作品には、わくわくする要素がたくさんあった。事件そのものの奇妙さ、真相のとんでもなさもさることながら、作品ごとに主役と脇役が入れ替わって共演しているという趣向も楽しいものだった。それぞれが独立した作品でありながら、世界観を共有しているのみならず、「あの人が、こんなところに!」と驚かせてくれ、しかも別の作品で描かれる事件について言及する(中には、まだ書かれていない作品を予告したものまである)作品群は、島田作品を追いかける読者にとってたまらない趣向だった。

 本作で主役を張るのは、警視庁捜査一課の大ベテラン、中村吉造刑事。島田作品の二大看板のひとつ、吉敷竹史シリーズに吉敷の先輩として登場し、更には短編「疾走する死者」(『御手洗潔の挨拶』所収)で御手洗潔とも共演していたキャラクターである(この短編は、『嘘でもいいから殺人事件』『嘘でもいいから誘拐事件』の隈能美堂巧も登場する豪華共演版)。この事件については、『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』で「去年越後寒川へ行った」、更に『死者が飲む水』で「やっかいなヤマを抱えている」と言及している(ちなみに、『死者が飲む水』の主役、北海道警察札幌署の牛越佐武郎刑事は、『北の夕鶴2/3の殺人』『奇想、天を動かす』にも登場、『斜め屋敷の犯罪』では御手洗とも組んでいる)。

 昭和57年師走。四谷の雑居ビルで放火と思われる火事があり、焼け跡から若い夜勤ガードマンの焼死体が発見された。自殺とも、他殺ともつかぬ疑惑の中、彼のアパートを捜索すると、部屋は不気味なほど整理されている。彼には同棲していた女がいたはずなのだが、自分の痕跡をすべて消して、行方をくらませたらしい。手がかりらしきものは、「寒子」と書かれた白い紙きれだけ。女を追う中村刑事を嘲笑うように、第二、第三の放火事件が発生。現場には「東亰」という奇妙な文字が残されていた……。

 東北出身者の悲哀、都市生活の寒々しさ、密室、謎の文字といった要素は、まるで傑作刑事ドラマ『特捜最前線』で、橘か船村が主役を張りそうな話である。京都出身、京都在住の私にとって、江戸論などは正直どうでもいいのだが、本作に満ち溢れる悲しみと孤独感には替えがたい魅力がある。『奇想、天を動かす』の先駆となった、社会派と本格が融合した傑作。ノンシリーズものなので、あまり話題にならないが、読み逃すと大損である。


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