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ダイキチデラックス

水車館の殺人

綾辻行人  1988年


藤沼一成の遺作「幻影群像」を見てみたい

 ミスター新本格、綾辻行人の第2作にして、館シリーズ中(って、まだ完結していないけれど)1、2を争う傑作。正直なところデビュー作『十角館の殺人』は凡作だと思います。て言うか、犯人の隠し方はともかくとして、孤島を○○○するのに○○○○○を使用していましたっていうのは、あまりにもしょぼい真相ではないか。そこが眼目ではないにしろ、いくらなんでも肩透かしの感が否めない。もっとも、館シリーズそのものが出来の良いシリーズというわけではなくて、第4弾『人形館の殺人』は、それなりに面白かったものの、第5弾『時計館の殺人』なんてトリックが分からない奴がいるのだろうかというほどにバレバレの展開だったし、第3弾『迷路館の殺人』なんて、ノベルスでの趣向を文庫では中途半端にしていたから、作品の価値そのものが減じてしまっている。ああいうところで手を抜かずに、ちゃんと文庫用に体裁を整えてこそ、さすが新本格というものではないのか。もっとも、これは綾辻のせいではなくて、講談社のスタッフが悪いのかもしれないのだけれど。愛があれば出来たことでしょうに。その点「私にとって本格とは雰囲気だ」との発言どおり、見事に「それっぽい雰囲気」を醸し出した本作は面白かった。

 岡山県北部の山間に建てられた、古城を思わせる異形の建物「水車館」の主人は、過去の事故で顔面を傷つけ、常に仮面をかぶっている。そして妻は幽閉同然の美少女。館には幻視者と呼ばれた天才幻想画家・藤沼一成の絵画が飾られていて、一年に一度、4人の男が招待され絵画を鑑賞することになっていた。一年前の嵐の夜、家政婦の転落死、絵画の盗難、来客の不可解な消失、そして、バラバラにされた焼死体の出現……と不可解な事件が起きてしまった。その事件はひとつの「解決」のうちに葬り去られたはずだった。そして、ちょうど一年が経ち、再び鑑賞会が行われようとしていた。再び集結する当時の客人たちの前でまたしても殺人事件が発生する。絵画に呪縛され閉鎖された館、過去と現在が交錯する事件の実相とは?

 実は、この作品、世間ではそんなに評価が高いわけではない。あまりにも古めかしい道具立てのせいか?目新しいトリックが使われていないからか?しかしながら、これこそが、綾辻独特の持ち味を生かした作品ではないでしょうか。この後に書かれた『人形館の殺人』が評価されるのなら、本作だって、もっと評価されていいはずだ。こういう横溝チックな雰囲気こそが、後に「本格冬の時代」と呼ばれることになるあの頃に求められていたのではなかったか。とにかく、綾辻の作品に関しては、トリックがどうとかロジックがどうとかプロットがどうとかじゃなくて、あの独特の雰囲気を味わうのが正しい読み方だと思います。


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