ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

棄景 廃墟への旅

丸田祥三  1997年


あまりにも静謐な、この上なく静謐な写真集

 これといった理由もないのに、とてつもなくブルーになるときってありますよね、誰でも(多分)。特に私はシャイでナイーブでデリケートなため、度々鬱の症状に悩まされるのです。そんなときには、この写真集を開くのです。これには、もう使われていない線路、列車、建物など、かつての栄華の名残も消え、朽ち果て、忘れ去られていくだけのものが映されています。私自身、ビルの谷間にぽっかり空いた空き地とか、潰れて放ったらかしになっている店舗とか、そういった切ない哀しいものが大好きなので、この写真集には凄く心惹かれるのです。

 14歳の時から、廃墟の風景を追い求めた作者の最初の写真集。レトロブームの前から、作者は棄てられた建造物に自分自身を投影し続け、廃校や廃線となった鉄道を撮り続けたとのこと。作者の追い求めた風景は、短く錆びて切断されたレールの向こうがわに、見る人それぞれの記憶を思い浮かべさせる。棄てられたレールは人と人とをつなぐ力を失ったが、彼の写真によって、再び記憶をつなぐことができるようになった。廃墟は特殊な場所ではなく、我々の世界に遍在しているのだ。

 でも、あれかな、こういう感覚って昭和40~50年代にお子様だった世代にしか分からないのかも知れませんな(ちなみに、作者は1964年生まれで、私より5つ歳上)。高度経済成長から公害問題の顕在化っていう社会状況を背景に育った人でないと、理解できない感覚なのかも知れません。輝かしい未来という夢を持てた頃を知っていて、そして、その夢が死んでいった経過を体験している世代でないと。既に死んでしまった夢までもが懐かしくて、知らず知らず涙ぐんでしまうなんて気持ちは、夢を持つことすら許されない「あらかじめ失っていた世代」の人たちには理解できないでしょうねぇ。

 折角なので、ブルーな人たちに一言。あのね、気分が落ち込んでいるときに明るいものを見たり聴いたりしちゃダメですよ。逆効果ですから。沈んでいるときは、沈んだままでいいんです。まずは自分と同じレベルの暗さを持ったもので周辺を浸すんです。こういった写真集なんかが最適です。で、ちょっとずつ明るい方へ持っていく、これが極意です。それとね、頑張っちゃダメです。テキトーでいいんです、テキトーで。学校や職場を休んで寝ていたって地球は勝手に廻っているんだから。


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