ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

成田亨画集 ウルトラ怪獣デザイン編

1983年


全世界に誇りうる国宝級の画集

 ああ、逢いたかったわよぉ~。この本をどんなに捜し求めていたことか。もう20年近くになるのかと思うと感無量です。発売当時、私は中学生ですから、そんなに金を持っているはずもなく、バイトもしていなかったし、小遣いは月2000円だし、こんなに高い本(1800円)を買えるわけはなかったのですね(その割りにメカニックデザインを集めた第2集を持っているのはなぜだろう?)。でも、欲しくて欲しくて……でも数年経つと店頭からは完璧に姿を消しているし、わざわざ朝日ソノラマに電話したけれど再販予定はないって言うし(仕事の合間を見つけて電話したのに、担当者はいないとか出版社は時間が不規則だとかなんとか迷惑そうに言われて何度も電話をさせられて実に不愉快な思いをした)、二度とお目にかかることもないのかなぁと思っていたら、いやぁ、えらいもんですインターネット!札幌の古本屋さんのサイトで発見、たとえ価格が3500円(ぶっちゃけ安すぎると思う)になってても即購入ですよ。皆さん、欲しいと思ったら、少々無理してでも手に入れておかなきゃダメですよ。

 この成田亨という人は、青森県出身のデザイナー、彫刻家です。武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)で洋画を専攻していたものの、授業が不満で彫刻学科に転科。美術学校卒業後、友人に誘われ、『ゴジラ』にアルバイト参加し、ゴジラに壊される建物のミニチュアを制作したのがきっかけで、以後、美術スタッフとして、各映画会社の特撮作品に加わる。1965年春に円谷特技プロダクションの契約社員となり、『ウルトラQ』の第2クールから美術監督、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『マイティジャック』でも、怪獣やレギュラーメカのデザインを手がけた(これらのキャラクターデザインに関しては、後にその著作権を巡り、円谷プロと争うことになる)。円谷プロを退社後は、大阪万博の「太陽の塔」内部の「生命の樹」のデザイン、映画の美術監督などを経て、全国各地で個展を開催しています。

 デザインの素晴らしさについては、見ていただければお分かりでしょう。それもこれも芸術家としてのゆるぎない信念と深い洞察によるもので、侵略宇宙人のデザインについても、「地球人にとっては悪でも、彼の星では勇者であり正義なのだから、『不思議な格好よさ』がなければいけない」と述べています。この芸術家魂!これだけでもすごいのに、ウルトラマンとウルトラセブンの銀色塗装による金属感の表現には不満だったらしく、『突撃!ヒューマン!!』では、ヒューマンのマスクをステンレスの叩き出しによる金属成型で表現し、自ら「会心の作」と述懐しております。『円盤戦争バンキッド』(無名時代の奥田瑛二が主演)の宇宙人のデザインも手がけており、これに関しては「作品内容は取るに足らないものであったが(←おいおい)、宇宙人のデザインは気に入っている」と語っています。外国にも宇宙人はいますが(なんか変やな、この日本語)、ここまで洗練されたデザインのものはありません。『突撃!ヒューマン!!』と『円盤戦争バンキッド』については画集も何も出ていないので、この際、是非作品を全部集めて出版してほしいものです。

 ところがどっこい、ファンには残念なお話もあるのです。先にちょっと触れた著作権問題です。ウルトラマンや怪獣のデザインは成田の功績と言える一方、クリエイターの著作権に関してはその帰属が明示的に処理されていなかった(ただし、成田は円谷プロの社員デザイナーとして参加しているので、東映キャラクター番組における石森章太郎や永井豪とは事情がまったく異なる)ため、後年になってデザインに関する著作権を主張する成田と、作品そのものの著作権を持つ円谷プロとの間で対立が表面化、そのため、この画集も成田本人の意向により絶版のままになっています。その一件で成田はスタッフに不信感を抱いており、実際、デザインの制作過程に無関係なスタッフが「自分たちがみんなで考えて絵描きに描かせた」(!)なんて言ったりしています。というわけで、円谷プロとは、ずっと不仲であり、現在、出版されているウルトラマン関係の本でも、その業績は故意に過小評価されています。円谷プロってのは、タイの一件とかも含めて、変な会社です。

 しかし、成田も負けておりません。後に生み出されたウルトラ怪獣の奇怪で複雑なデザインについても、デザイナーが安易で狭い姿勢をとり続ける限り、既存の怪獣の単なる組み合わせや複雑化などデザインの堕落が進むと批判したり(「新しいデザインは必ず単純な形をしている。人間は考えることができなくなると、ものを複雑にして堕落してゆく」)、愛情あふれる「鎮魂歌」という詩を「ウルトラマンの墓」と題したモニュメントに彫りつけたりしています。芸術家というのは、やはり、かなり頑固でなければやっていけないんでしょうかね。

「鎮魂歌」
星から来た勇者 地球を救った勇者 永遠であれ 君を利用し 金儲けをたくらむ地球人の為に 角をつけたり 髭をつけたり 乳房を出したりしてはいけない スーツを着たり 和服を着たり 星空に向かってラーメンをかゝげてはいけない 経済と技術に溺れて了った地球人は 叡智と勇気を失って いま もだえ苦しんでいる しかし 遠からず必ず不変の叡智を取りもどすだろう 君は星空の彼方から見とどけてくれたまえ 永遠の偶像よ


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