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ダイキチデラックス

サルの正義

呉智英  1993年


暴論に正論あり

 この呉智英という人は日本人です、念のため。ペンネームは「くれ ともふさ」と読む。「ご ちえい」という読み方もOK。経歴がすごいです。「儒者」「封建主義者」を自称し、民主主義信奉者や人権思想を批判。大学で論語の講座を持っていたこともあるし、漫画にも造詣が深く、京都精華大学マンガ学部客員教授、日本マンガ学会会長も務めている。1971年に早稲田大学法学部を卒業。学生運動では日本共産党にも既存の新左翼の組織にも所属せず、無党派の活動家として新左翼運動に参加し、大衆迎合主義や日本共産党の党派性を批判した。早稲田大学の学費値上げなどを巡るストライキを防衛するため、スト破りをもくろむ運動部の学生と乱闘して逮捕され、1969年に執行猶予つきの有罪判決を受けた前科者。

 民主主義や人権論の矛盾を追究し、脱却する道として封建主義(主に、孔子の唱えた儒教)を提唱、長年に渡って主に、「進歩主義的」な左翼勢力の批判(「朝猿新聞」……もとい「朝日新聞」や、新左翼がさらに思想的に袋小路に入った『珍左翼』(呉の命名)など)を主に行ってきた。だが、近年の左翼思想の退潮から、右翼側の「猿経新聞」……もとい「産経新聞」の批判的研究などをはじめ、「産経新聞」にしばしばトンデモ系のオカルト記事が掲載されることなどを批判している(俗流オカルト思想には一貫して批判的である)。思想・政治・文化など様々な分野へユニークな提言を続け、自身も再三重要性を訴えるとおりの教養人・知識人であるが、その文章は一貫してユーモア溢れるくだけた文体を遵守しており(ちょうど政治的視座において対照的な左翼言説とは正反対のスタンス)、明確な論旨と相俟ってその表現は非常に平易である。呉の近代批判、民主主義批判の影響は大きく、40代の評論家に最も尊敬されている知識人とされ、その思想的影響を受けたものとして浅羽通明、大月隆寛、宮崎哲弥、小谷野敦などがいる(癖のある奴ばっかりじゃねえか)。

 最初に読んだ呉智英がこの本でした。本屋で思わず衝動買い。だってタイトルがキテるよね。このタイトル見て読もう!と思わなかったら、このサイトは向いてないですよ。向いてなくても困らない?むしろ向いてない方が社会的に健全?そりゃまぁ一概に否定はしませんけどさ……。とにかく読みやすくてスイスイいけちゃうスグレモノ。ひょっとしたら全著作中、一番読みやすいのかも知れません。だから極端な話、これだけ読んでいればOKっていうか……。いやいや、でもね、はまると抜け出せないようになるんですよ、この人の本って。特に退屈な暮らしをしているサラリーマンのあなた、こういう毒素みたいなものって、ちょいと縁遠くなっているでしょ?冒険したいでしょ?だからって博打なんかに手を出しちゃダメですよ。冒険するなら知的に冒険しなくちゃ。そうです、この本を手に取ればいいのです。「馬と鹿の次は猿だ(前著が『バカにつける薬』だったから)!暴論に正論あり。混迷の20世紀末に贈る知性の爆弾!」というわけで、ここでは世間で「正義」とされているものが、いかにアホな、人間以下の「サル」の考え方であるかということが分かっちゃう。で、わが身を振り返って、よりよい脳味噌を育みましょうということなのですね。皆がこういう本を読むようになれば、もうちょっと世の中が面白くなるのにねぇ。


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