ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

コブラ

寺沢武一  1977年~


神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ

 「聞いとるでぇ。悪名高い海賊コブラのことは風の噂でな」「風なんかと噂話するなよ」……こんな粋で洒落た台詞がバンバン飛び出す名作。人類が宇宙進出した24世紀。貿易会社に勤め平凡な日々を過ごすジョンソンは、ある事件がきっかけで、自分が記憶を消し顔を整形して、数年前から別の人生を送っていた事を思い出す。しかし、宿敵である海賊ギルドに正体を知られたため、彼は相棒の女性型アーマロイド「レディ」と危険に満ちた人生に逆戻りするため宇宙へ飛び出していく……左腕にサイコガンを持つ一匹狼の宇宙海賊・コブラの活躍を、アメコミ風タッチで描く痛快SFアクション(スペースオペラ)!

 それにしても、どれもこれも洒落た会話ばっかり。「あなたゲーブルじゃないわね!」「君だってビビアン・リーじゃないだろう」……こんな台詞が『少年ジャンプ』の読者に理解できるか?(クラーク・ゲーブルとビビアン・リーは、映画『風と共に去りぬ』の主演コンビ)。「俺には結婚生活は似合わんさ。夜はステキだろうが昼は退屈だ」……ああ、少年誌なのに!そんな台詞や会話もさることながら、ストーリーやアメコミ調炸裂の絵のセンスも抜群。正にセンス・オブ・ワンダーのオン・パレード。アニメでは『あしたのジョー』『エースをねらえ!』でおなじみの出崎統が演出で頑張っていたけれど、原作の面白さを再現するのは辛かったようだ。劇場版では松崎しげる(主題歌も)、テレビじゃ野沢那智が声をあてていました。なんでもファンの間では山田康雄にあててほしいという声が大きかったらしいけれど、個人的には野沢那智の声で正解だったと思う。山田康雄じゃ線が細すぎて、原作初期のひょろっとした感じならともかく、中盤以降の筋肉もりもりでがっしりしたコブラには合わなかったのではないか。原作者の寺沢武一も「コブラは野沢でなければ作らせない=作らない、意味がない」と言ったらしいし(野沢没後も作っているけどね)。

 さて、最近の寺沢はコンピューターを使って描くのが当たり前のようになってきているのだけれど、これがまた期待はずれで面白くない。アニメを本にした奴みたいで絵が薄っぺらい。集中線やスピード線といったマンガ独自の効果線を使っていないのが致命的に迫力を消してしまっているのだと思う。「リアルであること」と「リアルに感じられること」とは違うもので、後者の方が大切だということを思い出してほしい。『コブラ』も最近、昔の絵をデジタル加工して再発しているのがあるけれど、どうもピンと来ない。昔の絵のままで読む方が数段いいですよ。デジタル使いまくりの『コブラ』の新作より、アナログ時代の作品で、ちょっとだけリアルにして大人向けに(要するにスケベ度アップ)した『ゴクウ』、外人に見せたら絶対に日本を理解してもらえないような時代劇にした『カブト』、コンピュータを使っているけれど、古い機種のせいで逆に笑える陽気なファンタジー『バット』の方がいいかも知れません。


copyright©Daikichi_guy 1999-2020  all rights reserved.