ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

恥知らずのパープルヘイズ

上遠野浩平  2011年


これは一歩を踏み出すことができない者たちの物語

 2013年現在、ジョジョは第8部「ジョジョリオン」連載中。世間の評価とは裏腹に、ジョジョは第3部から面白くなくなったと公言して憚らない私である。第2部で究極生物との戦いをやった後で、単なる吸血鬼風情のディオに復活されても盛り上がらんなぁというのが正直なところ。パワーインフレ回避策として評価されているスタンドにしたって、「一人に一体」「呼吸ができなくなると消える」「本体から離れると力が弱くなる」といった当初のルールを無視して大量生産されると「何でもアリかい」と興醒め、興醒めェッ!まぁ、第4部以降になると慣れちゃって、それなりに楽しんでいるわけだが。

 それはさておき、本作は荒木飛呂彦画業30周年&「ジョジョの奇妙な冒険」25周年記念公式ノベライズ企画「VS JOJO」シリーズの第1弾。第5部「黄金の風」の後日談である。第5部は、ディオの息子(この設定もどうかと思う)で、ギャングスターに憧れ、子供にまで麻薬を流す外道ギャング団「パッショーネ」を倒そうとするジョルノ・ジョバァーナが主役。なんやかんやでパッショーネに潜り込み、ボスの邪悪な本性を知ったブチャラティのチームとともに反旗を翻すという物語なのだが、反逆したチームについていけず離脱したのが、本編の主人公パンナコッタ・フーゴである。原作ラストでジョルノがボスを倒し、パッショーネを掌握してから半年後。ブチャラティのチームから離脱した「裏切者」フーゴは、ジョルノ親衛隊の一人であるシーラEによってサッカー競技場「ジュゼッペ・メアッツァ」まで連れてこられた。待っていたのは、かつての仲間で、現在は組織の№2(ただし自称は№3)となったミスタだった。ミスタは、フーゴに対し、自分が裏切者ではないこと、そして改めて組織への忠誠を証明させるため、旧組織の負の遺産である麻薬チームの始末を命ずる。完遂できなければ死という状況下、フーゴの新たな任務が始まった……。

 タイトルにある「パープルヘイズ」とは彼のスタンドで、すべての生物を約30秒で腐らせ殺すウィルスをばら撒く能力。この能力が強力かつ凶悪で使いどころが難しすぎたため、戦線離脱という方法で退場させられたらしいが、原作者ですら扱い兼ねた奴を主人公に見事な作品に仕上げた上遠野浩平は偉いッ!大いに話題になった『ブギーポップは笑わない』『殺竜事件』も面白いと思わなかった私だが、これは評価しないわけにはいかないッ!ジョジョのノベライズとしては、既に第4部「ダイヤモンドは砕けない」の後日談として乙一が書いた『The Book』があり、とても面白く読んだのだけれど、あの世界のお話としては暗すぎて(まぁ『GOTH』の作者だから仕方ないのかも知れんが)少々違和感があった。しかし、本作は、もともと暗い第5部の後日談なので違和感もないし、原作を深く読み込んだと思われる見事な解釈によるストーリー、他の部の登場人物の絡ませ方も非常に上手く、理想的な二次創作物となっている。なお、「VS JOJO」シリーズは、西尾維新による『OVER HEAVEN』、舞城王太郎による『JORGE JOESTER』と続くわけだが、前者は単なる原作の継ぎ接ぎと穴埋めに終始するオリジナリティ皆無の駄作、後者は何がどうなってるのかサッパリ分からない大暴走作品ということで、自己満足の同人誌レベルにとどまっていたのが残念ですな。


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