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ダイキチデラックス

猫の舌に釘をうて

都筑道夫  1961年


私はこの事件の犯人であり、探偵であり、被害者である

 私は淡路瑛一。売れない推理小説家だが、「一人称小説の私が、被害者であり、探偵であり、犯人である」という前人未踏のトリックを使ったミステリを書いてやろうという野望を抱いている。ところが、トリックの中身を思いつかないうちに、自分がその立場に置かれてしまった。私は、愛する有紀子を奪った塚本を憎んでいたが、塚本を殺すと有紀子が不幸になるというジレンマに悩んでいた。そこで、塚本に似た後藤を毒殺するふりをして、我ながら情けない憂さ晴らしをしようと考えた。ところが、有紀子の風邪薬を毒薬に見立ててコーヒーに混ぜておいたら、後藤は本当に死んでしまった。私は「犯人」になってしまった。この風邪薬は、もともと有紀子のものだから、誰かが有紀子を殺そうとしているに違いない。私は「探偵」になった。しかし、有紀子を狙っている奴に感づかれると、「被害者」になりかねない。私は、たまたま編集者からもらった都筑道夫の『猫の舌に釘をうて』の束見本に、捜査内容を書き留めていたのだが、そうこうしているうちに有紀子は殺されてしまう。おまけに、束見本に誰かに勝手に「読者の挑戦状」(「読者への」ではない)を書き込まれてしまう。「読者」とは誰か。そして、有紀子殺しの犯人は誰なのか……。

 この本の本当の面白さは、手にとって読まないと分からないんですよ。とにかく本屋で探してゲットしてください、としか言いようがないですね。とにかく、本という物体そのものを利用して書かれた、こんなに凝った小説なんか読んだことなかったですからねぇ。凝ると言えば泡坂妻夫ですが、本そのものを、このように使った小説は空前絶後ではないでしょうか。絶対に映画化はできないし、電子書籍でも楽しめない小説です。それにしても、電子書籍というのは流行るのでしょうか。私は、本は単に情報が書かれた紙ではなくて、「物体」だから素晴らしいと思うんですが、大抵の読書好きの人というのは、そうではないのでしょうか。大体、目が疲れるでしょうに。京極夏彦の弁当箱より厚みのある小説を電子書籍になんかされたら、確実に目をやられますよ。電子書籍というのは、森林資源を守ろうとか何とか言って、実は、眼医者と眼鏡屋の陰謀ではないのだろうか。

 しかし、それにしても変なタイトルですねぇ。同じ変なタイトルでも『なめくじに聞いてみろ』では、作品中でタイトルの意味を説明していたけれど、この『猫の舌に釘をうて』に関してはタイトルの説明があったという記憶がない。主人公が「変なタイトルだな」みたいなことを言っていたような、いなかったような……もっとも、読んだのは随分昔なので忘れているだけかも知れませんけれど。


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