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ダイキチデラックス

喪服のランデヴー RENDEZVOUS IN BLACK

コーネル・ウールリッチ  1948年


二人は毎晩八時に逢った。雨の降る日も雪の日も、月の照る夜も照らぬ夜も。

 彼には、愛する恋人がいた。二人は毎晩、決まった場所で、決まった時間に逢った。彼にとって彼女がすべてだった。毎日毎日、彼女との時間だけが彼にとって生きるすべてだった。その夜も、彼は待ち合わせ場所に急いでいた。上空を低く小型旅客機が飛び抜ける音が聞こえていた。そして待ち合わせ場所に行くと、そこには人だかりがしていた。その中心には、かつて彼女だった残骸が転がっていた。旅客機の乗客が心無く落とした壜が、愛する娘の生命を一瞬のうちに奪い去ってしまった。永遠に癒されぬ悲しみを心に秘めて、彼は復讐の鬼となった……。

 こんなに可哀想な話は読んだことがない。いやホント。最愛の恋人の命を奪った者に対する復讐劇、というと安っぽく聞こえますが、とにかく必読の傑作。これを読んで泣かない奴は人間じゃないぞ!できれば、夜に一人静かに読んで泣いていただきたい。復讐の方法が、かなり残酷で、冷静に考えれば、こんな主人公に感情移入なんて難しいと思うのですが、少なくとも読んでいる間は、そんなこと微塵も感じさせません。ウールリッチの文章は、甘美で、感傷的で、都会的な哀愁に満ち溢れていると形容されますが、当然ながら原文で読めるわけのない私は、高橋豊の翻訳で読みました。それでも、やっぱり酔わされるんですから、よほど原文がすごいのか、訳者の力量がただごとではないのか、これはいまだに謎です。

 その昔、土曜ワイド劇場で金田賢一、斉藤とも子(二人とも最近見ませんねぇ……)の爽やか主演コンビでドラマ化されたものも可哀想でした。斉藤とも子って幸薄そうな顔してるもんなぁ。西田敏行が金田一を演った『悪魔が来りて笛を吹く』でも、鰐淵晴子の化物オーラに圧倒されて、役柄をはるかに超えた幸薄さを発散しておりました。でも、こういう人が、芦屋小雁が必死になって集めたSF・ホラー映画のフィルム(わざわざ海外から取り寄せたりして日本でも有数のコレクターだった)を捨てさせるんだから、人は見かけによりません。ちなみに、ドラマのタイトルは『純愛連続殺人 血塗られたウェディングドレス』。この頃(1981年放送)は、やれ温泉だの旅情だのはタイトルに入っていないし、すっきりしていて、いいタイトルですね。蛇足ながら、この主演コンビでもう1本『純愛連続殺人 すすり泣く水子地蔵』という、ウールリッチとは何の関係もない続編が作られました(1982年放送)。「純愛」なのに「水子地蔵」って、どういうことなんでしょうか。田舎で血に呪われた連続殺人が起きるという横溝もどきで、ウールリッチとは最も縁遠い内容で、脚本は『怪奇大作戦』の欠番作品「狂鬼人間」や『翔べ!必殺うらごろし』などの狂った作品でおなじみの山浦弘靖でした。


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