ダイキチ☆デラックス~音楽,本,映画のオススメ・レビュー

ダイキチデラックス

邪馬台国はどこですか?

鯨統一郎  1998年


九州?畿内?そんなところにあるもんか!!

 推理小説は再読がきかないと言われております。確かにそれはそのとおりで、犯人やトリックを知ってしまうと、2度目からは、伏線がきれいに張ってあるとか、文章が美しいとか、真相以外の部分に面白さを探さなければならないわけです。それもいいのですが、やっぱり驚愕の真相に唖然としたり腰を抜かしたりというところが、ミステリの一番の楽しみだということは否定できませんし、再読が辛くなるのは致し方ないことなのでしょうね。でも、この作品は違います。これはオチそのものもさることながら、そこに至る理屈が楽しい作品なので、何度でも読み返しがきくのです。

 カウンター席だけの地下一階の店に客が三人。某私立大学で歴史を専攻している三谷敦彦教授と助手の早乙女静香(超絶美女)、そして在野の研究家らしき宮田六郎。初顔合わせとなったその日、「ブッダは悟りなんか開いていない」という宮田の爆弾発言を契機に、白熱の歴史検証バトルが始まった!ブッダの悟り、邪馬台国の比定地、聖徳太子の正体、明智光秀謀叛の動機、明治維新の黒幕、イエスの復活を俎上に載せ、歴史の常識にコペルニクス的転回を迫る、大胆不敵かつ奇想天外な歴史ミステリ連作集。

 実は、私は歴史の勉強というものが、この上なく嫌いなのであります。年号を覚えるのも鬱陶しいですし、縄文式土器と弥生式土器の違いを覚えたところで、何の役に立つというのでしょうか。そもそも、794年に平安京ができたとか、江戸幕府5代将軍徳川綱吉が生類憐みの令を作ったとか言われても、「見たのか」とか思うのですよ。記録があるといったって、それが事実である保証はないわけだから、神話や山田風太郎の忍法帖と何も違いがないと思うのです。そんなことを勉強している暇があったら、現代史を学ぶべきだと思うのです。最近は、日本がアメリカと戦争したことを知らない子供もいるらしいじゃないですか。安保闘争とか聞いたこともないんじゃないですか。戦後日本史や中東問題など現在に直結することを学ぶのが先で、いわゆる「歴史」なんてものは、大学に入ってからで十分です。

 そんなふうに思う私にとって、これまで学者さんたちが真面目に論じてきた問題を、ほろ酔い加減で引っくり返してくれる本書は、実に愉快痛快な作品なのです。歴史の知識があれば、更に楽しめるのでしょうが、そんなもんなくてもノー・プロブレム。いわゆる「定説」も簡単に説明してくれますし、それに対する怒涛の反論から驚愕の結論への流れは、これこそ都筑道夫言うところの「論理のアクロバット」の究極形ではなかろうか。「理屈と膏薬はどこへでもつく」というミステリの本質を暴いてしまった、ここ数年でナンバーワン、ベストワン、オンリーワンの大傑作。アイラッビュ、アイウオンチュ、アイニィジュウなのでございます。かなりハイテンションでお薦めしておりますが、読んでいただければ私の興奮も御理解いただけることでありましょう。とにかく全力でオススメする逸品なのでございます。


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