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ダイキチデラックス

殺人症候群

貫井徳郎  2002年


衝撃の大破局に向かって加速するストーリー!

 警視庁内には、捜査課が表立って動けない事件を秘密裡に処理する極秘集団が存在した。人事二課の現役警視である環をリーダーに、元警察官の原田、武藤、倉持から成る影の捜査チームである。これは、裏の世界の犯罪を、あの手この手のからくりで、表の世界にさらけ出す特殊捜査チームの物語である……。

 彼らの活躍を描く『症候群』シリーズ第3弾にして完結編(ちなみに第1弾は『失踪症候群』、第2弾は『誘拐症候群』)。そして、「貫井徳郎に外れなし」。これを見事に証明した作品。推理小説を読んで30年、この私が自信をもって断言しちゃうが、ポスト東野圭吾は、この人である。

 さて、今回は、過去、事件の加害者になり復帰した人間が次々と殺される事件が続発。一見無関係と見える複数の殺人事件の繋がりを探る彼ら。そして、浮かび上がってきたのは、犯罪被害にあった者の復讐を請け負う「職業殺人者」だった……。今回の捜査対象は職業殺人者、殺し屋です。しかも、精神障害者や未成年といった、法でキッチリ裁けない奴らを対象に仕事する連中が相手です。「ハングマンvs必殺!」というのが宣伝文句なんですが、そういう宣伝では中身が泣くぞ。なにしろ一般ピープルにとっての「必殺」は正義の味方の仕事人が許せぬ悪を華麗に始末するってな感じの作品でしょ?アクションものと勘違いさせて買わせるっていうのも販売テクニックかも知れませんけどね。そんな軽い作品じゃありませんぜ。ずっしり重い作風には定評のある貫井のこと、今回も思いっきりGをかけてくれます。

 「大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?」「この世の正義とは何か?」……復讐の意味とか被害者の人権とか人が人を殺すことの意味とか、そういったような重くて大きなテーマを見事にエンタテインメントに昇華。しつこくなく、説教臭かったりもせず、同様のテーマを扱っていた石川真介の『死刑、廃止せず』や東野圭吾の『さまよう刃』とはまったく違う面白さで、ぐいぐい読者を引っ張る物語の力強さ! おまけに、どこかで聞いたような台詞、どこかで見たようなシチュエーション連発で、必殺シリーズ大好きっ子なら2倍、3倍楽しめるぞ!さすが業深き必殺者貫井!

 しかしながら、作者曰く「まったく世間から黙殺された」作品だったらしい。それは、あまりにも「必殺」しすぎていたからではないか。本書で語られることは「必殺」シリーズで既に語られていたテーマであって、それを改めてなぞっているだけじゃないかという批判的な視点があったのかもしれない。そもそも、この本に反応を示しそうな連中というのは、私のような必殺マニアだろうし、そういう連中が「なんだ、必殺の復習か」なんて思って軽く見た可能性はある。しかし、これは単なる売り込み戦略上の失敗であって、作品の価値をいささかも減じるものではない。何度でも言う。これぞ社会派エンタテインメントの大傑作!超ド級のオススメ作品だっ!これを読まなきゃ大損するぞ!


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